研究概要 |
抗ガングリオシド抗体は免疫性ニューロパチーの診断に有用であり病態解明の手がかりとしても注目されている。ガングリオシドは細胞膜上でリン脂質と混在している。本研究ではリン脂質とガングリオシドの混合抗原に対する血中抗体の反応性を検討した。Guillain-Barre症候群(GBS)における抗GM1 IgG抗体の反応性は、PA, PS, PIなどのリン脂質のプレート上での共存により増強した。一方Fisher症候群にみられる抗GQ1b IgG抗体ではこのような増強はみられなかった。またどちらの抗体もSMの共存により反応性は弱くなった。次にGBS、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)およびmultifocal motor neuropathy(MMN)の抗GM1 IgM抗体について同様の検討を行ったところ、GBS、CIDP、MMNのいずれにおいてもリン脂質を加えたときの活性の増強はみられなかった。一方抗GM1 IgM抗体でもSMを加えたときの反応性の低下がみられた。SMの混合による抗体活性の低下は、免疫性ニューロパチーの抗ガングリオシド抗体に共通する可能性が考えられた。ガングリオシドは神経系に広範に分布するがその作用はガングリオシドが高濃度に局在する部位に限られる。このことが、細胞膜表面のSMの共存による抗体活性の抑制により説明可能と考えられる。一方、抗GalNAc-GD1a IgG抗体については、抗GM1 IgG抗体と同様にPAを加えることで抗体活性が増強されることがわかった。この結果は抗GQlb IgG抗体と異なり、抗GM1 IgG抗体と抗GalNAc-GD1a IgG抗体のどちらもCampylobacter jejuni感染後のGBSに多くみられることと関連していると考えられた。われわれの研究結果は抗ガングリオシド抗体の意義を考える上で膜上に共存するリン脂質の影響を考慮すべきことを示している。今後ニューロパチー以外の免疫性神経疾患の血中抗体についても、同様の検討を詳細に行うことが病態解明に必要とえられる。
|