ポリグルタミン(PolyQ)病は種々の脊髄小脳変性症、ハンチントン病などを含む一群の難治性神経変性疾患の総称で、異常伸長PolyQ鎖が病的コンフォメーションを獲得し、難溶性凝集体の形成あるいは病的な蛋白質間相互作用などにより神経変性を引き起こすと考えられている。我々はこれまでに異常伸長PolyQ鎖選択的に結合するペプチドQBP1が試験管内、培養細胞において異常伸長PolyQ蛋白質の凝集体形成・細胞死を抑制することを明らかにしてきた。 本研究では(1)異常伸長polyQ蛋白質による神経変性に対するQBP1の生体内での抑制効果を明らかにすることを目的として、PolyQ病ショウジョウバエモデルを用いた遺伝学的解析を行った。ショウジョウバエ複眼に異常伸長PolyQ蛋白質と共にQBP1を共発現させると、PolyQ蛋白質の凝集体形成・複眼変性を著明に抑制することを見い出した。また神経系に異常伸長PolyQ蛋白質とQBP1とを共発現させると、異常伸長PolyQ蛋白質による神経変性・寿命短縮の著明な改善を認めた。 また(2)QBP1の結合による異常伸長PolyQ蛋白質凝集阻害の分子機構を解明することを目的とし、異常伸長PolyQ鎖の病的コンフォメーション獲得に対する影響を検討した。QBP1結合時の異常伸長PolyQ蛋白質の円偏光二色性分散を測定したところ、二次構造に大きな変化を与えないことから、QBP1は病的コンフォメーション獲得より下流でPolyQ蛋白質凝集形成を阻害していると考えられた。一方、PolyQ蛋白質凝集体のフーリエ変換赤外分光光度測定では溶液状態に比べ、β-Sheet含有率の増大を認め、電子顕微鏡観察ではアミロイド様の線維状構造物を見い出したことから、異常伸長PolyQ蛋白質は他のアミロイド性蛋白質と同様に、β-Sheetへのコンフォメーション変化→線維状凝集体形成という過程で凝集体を形成すると考えられた。 以上の結果から、異常伸長PolyQ鎖選択的結合ペプチドQBP1のin vivoでの治療効果を示すと共に、異常伸長PoIyQ蛋白質のβーSheetへのコンフォメーション変化→線維状凝集体形成という過程を阻害することが、ポリグルタミン病の治療標的となると考えられた。
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