研究概要 |
抗パーキンソン病(PD)薬レボドパ投与による脳内変化を明らかにするために,PDモデルにレボドパを投与して黒質-線条体系に特異的に発現誘導される遺伝子を探索し,その機能解析を行った. 1.レボドパにより特異的に発現誘導される脳内遺伝子の検索 片側PDモデルラットにレボドパを投与し,傷害側線条体において発現が誘導されるDOPA-induced parkinsonism遺伝子をdifferential display法で検索し,p53によって発現が誘導されるアポトーシス関連遺伝子p53-activated gene 608 (PAG608)を同定することができた. 2.酸化ストレスによるドパミン神経細胞のアポトーシスにおけるPAG608の関与と作用機序 PAG608アンチセンスcDNAの導入によるPAG608の発現抑制細胞では,酸化ストレス6-OHDA, H202によるDA細胞死,p53,Baxの発現増加,ミトコンドリア膜電位の低下,caspase-3の活性化とDNA断片化が抑制されていた.しかも,PAG608の過剰発現によりp53発現が増加した.したがって,p53により発現誘導されるPAG608は,酸化ストレスによるドパミン神経細胞のアポトーシスにおいて,p53ならびにBaxの発現を誘導し,ミトコンドリアの膜電位の低下を惹起していると考えられた.さらに,PAG608の第一Zn fingerドメインを介する核や核小体への移行が,アポトーシスの過程に必要という障害機構を明らかにできた. 3.ドパミンおよびメタンフェタミンによる神経毒性に対するPAG608の関与 過剰ドパミンおよびメタンフェタミン添加によるドパミン神経細胞の細胞死ならびにアポトーシス様の形態変化も,PAG608アンチセンスcDNAの導入により著明に抑制された. 4.レボドパ投与PDモデルラットの脳内におけるPAG608の発現分布 PDモデルラットでのPAG608免疫染色では,PAG608は恒常的に橋核,三叉神経運動核,顔面神経運動核で発現しており,内包ではレボドパ投与されたPDモデル障害側でのみ強く発現していた. これらの結果から,PAG608はレボドパやメタンフェタミンなどドパミンによるドパミン神経細胞障害過程に共通して関与していると考えられる.また,PAG608はPDモデルの大脳基底核部において過剰ドパミン毒性により特異的に発現誘導される分子であることを確認できた.
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