研究概要 |
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)の正確な病因は未だ解明されていない。主任・分担研究者らはこれまでにSSPE患者における末梢血単核球の麻疹ウイルス特異的サイトカイン産生を測定しT helper(Th)1サイトカインであるインターフェロン(IFN)γ産生能が低下し、Th2サイトカインの産生は保たれていることを報告した(J Neuro Virol,2000)。次にTh1/Th2サイトカイン反応の遺伝的背景を明らかにするため、SSPE患者38例における関連遺伝子の多型解析を行い、interleukin(IL)-4 promoter-589T多型の頻度がコントロールに比べSSPEで有意に高いことを初めて明らかにした(Arch Neurol,2002)。以上により、宿主の遺伝的要因が、細胞性免疫の抑制および抗麻疹ウイルス抗体の産生増強を通じて、麻疹ウイルスの持続感染およびSSPE発症へ関与している可能性が示された。麻疹ウイルスレセプター(CD46)のウイルス結合部位の遺伝子解析ではSSPE症例に変異はなかった(J Infect Dis,2000)。 抗ウイルス蛋白MxAは1型IFNに誘導され細胞質に発現し、麻疹ウイルスの転写や翻訳を抑制することが知られている。本年度の研究ではSSPE患者40名において、MxA遺伝子プロモーター領域の解析を行った。その結果、ISRE(interferon-stimulated response element) consensus sequence上にある-88G/T多型においてSSPE群では対照群90名に比してTアレルの比率が有意に高く(p=0.008)、ホモ接合者の割合が有意に高い(P=0.003)ことが示された。MxA遺伝子はSSPEの病態に関わる新たな宿主側の遺伝的要因であり、IL-4遺伝子、IRF-1遺伝子と並ぶSSPEにおける疾患感受性遺伝子の一つと考えられる。
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