我々は、3例のHTLV-I関連脊髄症(HAM)患者で定量的PCR法によるHTLV-Iウイルス量、ウイルス遺伝子のシークエンスによるウイルス抗原のアミノ酸置換、細胞内サイトカイン染色法によるHTLV-I特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の頻度、および人工変異抗原ペプチドを用いたCTL認識の緩さの測定を行った。これらの項目につき、各患者で経時的検討を行い、以下の結果をえた。 1.HTLV-I特異的CTLの頻度の変化は、ウイルス量の変化と連動していた。 2.ウイルス量が増加した時、HTLV-I特異的CTLの認識は緩くなっていた。 3.CTL頻度がほぼ同じ2例において、CTLの認識が緩い症例ではウイルス量は減少していた。さらに22例のHAM患者において、ウイルス量の少ない群は、多い群より、CTLの認識は緩いことを確認した。 4.CTLの認識の緩さは、CTLの抗原提示細胞への結合能とは関係なかった。 5.3例のHAM患者において、抗原のアミノ酸置換は、CTL頻度が低い症例の経過中CTL認識が最も緩い時に最大であった。 6.抗原のアミノ酸置換は、抗原提示細胞への結合部位よりも、T細胞レセプター結合部位に、より高頻度に起こっていた。 7.変異ウイルスは約5%の頻度で観察されたが、特定の変異ウイルスの集積は、経過中認めなかった。 以上の結果より、以下のことがわかった。 1.HTLV-I慢性感染症であるHAM患者の生体内においては、ウイルスの増殖と、宿主免疫反応の動的状態が存在する。 2.CTLはウイルスが増殖した時に、数が増加し、また認識の特異性が変化し、ウイルスの減少に関与している。 3.HTLV-I感染ではHIVの様にCTLから逸脱した変異ウイルスの集積は認めず、ウイルスのプロトタイプは安定ある。
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