我々は、HTLV-11関連脊髄症(HAM)患者の生体内で細胞傷害性Tリンパ球(CTL)がウイルス排除に働いているのか、また経過中にHIV感染のようにウイルス交代現象がみられるのかを検討した。3例のHAM患者で経時的にHTLV-1ウイルス量、ウイルスシークエンス、HTLV-1特異的CTLの頻度、人工変異抗原を用いたCTL認識の緩さの測定、ウイルスゲノムの同義置換/非同義置換を用いた正の選択圧の検出、ならびに変異ウイルス特異的CTLの検出を行い、以下の結果をえた。 1.HTLV-1特異的CTLの頻度と認識パターンはウイルス量の変化と連動していた。 2.変異ウイルスは0-20%の頻度で観察されたが、特定の変異CTLエピトープをもつウイルスの集積は、3-8年の経過中認めなかった。 3.報告されている6個のCTLエピトープのうち、3個に正の選択圧が認められた。 4.経過中変異ウイルスを認識するCTLの出現や、頻度の増加は認めなかった。 5.CTLに認識されない変異CTLエピトープをもつ変異ウイルスも、増殖は認めなかった。 以上の結果より、以下のことがわかった。 1.CTLはウイルスが増殖した時に、数が増加し、また認識の特異性が変化した。またHTLV-I Tax領域に正の選択圧が検出され、CTLエピトープと一致していたことより、CTLは生体内でウイルス排除にはたらいていることが示された。 2.HTLV-I感染ではHIVの様に、CTLから逸脱した変異ウイルスが主体となっていくような変化は認めなかった。 3.CTLを生体内で誘導し、正の選択圧を起こし、その一方で、変異ウイルスの集積を起こさないこれらのCTLエピトープは、HTLV-Iのワクチン開発のための標的となりうると考えられた。
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