研究概要 |
虚血後の脳内では炎症関連酵素である誘導型NO合成酵素(iNOS)およびシクロオキシゲナーゼ(COX)-2遺伝子が発現し,post-ischemic inflammationに関与していることが知られている.最近,これらの遺伝子のプロモーター領域に転写因子hypoxia inducible factor (HIF)-1に対するコンセンサス配列hypoxia-responsive enhancer(HRE)が存在することが明らかにされた.本研究では,局所脳虚血後HIF-1のHRE結合能が増加するのかどうか,また脳虚血後にHIF-1のターゲット遺伝子のひとつであるiNOSが脳内どのような部位で,どのようなタイムコースで発現してくるのかを検討した.Gel-shift assayでは,虚血1時間後には虚血中心部およびその周辺でinducible HIF結合能が増加したが,対側での変化は明らかではなかった.しかし6時間後には,対側においてもinducible HIF-1結合能の増加も認められた.さらに24時間後には,虚血中心部ではproteolysisが認められたが,周辺部では依然DNA結合能が増加していた.iNOS mRNAの発現は発症3時間以内では認められなかったが,虚血側では6時間後より発現がみられ,12時間後,24時間後に強い発現が認められた.発現は48時間後まで持続したが,96時間後には消失した.強い発現が認められた虚血12時間後の脳パラフィン切片を用いて,iNOS免疫組織およびヘマトキシリンーエオジン(H-E)染色を行った.iNOS蛋白の発現は,虚血巣内の周辺部あるいは血管周囲の円形小型細胞および血管壁に認められ,H-E染色でこの円形小型細胞は血管から浸潤した多核白血球であることが明らかとなった.血管壁のiNOS陽性細胞は,形態学的に血管内皮細胞および平滑筋細胞と考えられた.
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