日立メディコにより開発された光トポグラフ装置は、光の光路長を測定していないことから、得られたヘモグロビン量は、吸収係数と光路長の積の形で求まる。そのため吸収係数の大きい部位では光路長が短くなるため、両者の積でみている光トポグラフのコントラストの低下をもたらす。そのことを確認するため、浜松ホトニクス社の協力を得て、光り位相変調法(PMS)により、光トポグラフ各プローブ間の光路長(24カ所)を測定し、各光トポ信号の光路長による補正を施した。その結果、光路長は側頭部から頭頂部に向かうに従い、長くなる傾向にあり、その補正により、手の把握運動に対応した脳の活性部位は、光路長の補正をしなかった場合と比べ、より限局した部位が活性化され、functionalMRIの結果を参考にすると、より限局した活性部位を示す光路長補正後の光トポグラフ像の方が真実に近いものと推定された。しかし、光トポグラフでは、頭皮、頭蓋骨、脳表、脳といった多くの組織を通過した光を観測しており、この場合の光路長はこれら、すべての組織による寄与の総和である。一方、手の把握運動に伴う脳の活性化を求める処理は、把握運動時の信号から、安静時のトポ信号を差し引いたものであり、この処理により、主として脳実質でのヘモグロビン変化のみをみていることになる。その場合、頭皮・頭蓋骨といった、変化しない部分の寄与は相殺されていると解釈できるが、その信号を頭皮や頭蓋骨などの影響を含む光路長で補正することの意義に疑問を生ずる。しかし、これら信号の基本には頭皮・頭蓋骨といった組織を通過した結果が寄与し、上記の活性化による差分の信号強度にも基本となる信号強度が関与することから、全体の光路長による光りトポ信号の補正が、トポ画像の解像度、コントラストの改善に寄与したことは、理論的にも妥当性があるものと考えられる。以上より、相対値を評価している光トポグラフにおいても、光路長の測定装置を組み込むことにより、より解像度、コントラストの改善ができる見通しがたったと言える。 頭蓋骨の外から、脳内のヘモグロビン量の絶対値を求め、評価する場合には、これら頭皮・頭蓋骨における信号への寄与は無視できないものとなる。今後、脳内ヘモグロビン量の近赤外光による測定法を確立するためには、頭蓋外からの測定時に、実際に頭皮・頭蓋骨の影響が具体的にいくらになるかを、求める必要があり、現在そのような動物実験を計画している。
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