最近、変異Cu/Zn superoxide dismutase(SOD1)の主たる標的はミトコンドリアであるとの報告がなされている。ミトコンドリアの異常は神経細胞死に至る経路において初期の役割をなし、あるいは他の微細な障害の結果として生じ、慢性の神経変性の病態機序に関わっている。しかし、変異SOD1導入マウスでのミトコンドリアの超微細構造の変化に関する報告は少ない。今回、変異SOD1(G93A)トランスジェニックヤウスの脊髄を電顕および免疫電顕で経時的に観察し、ミトコンドリアの異常について検討した。 前発症期前期では、前根および前索、さらに軽度ながら前角のニューロピル内の大径有髄軸索内のミトコンドリア内部に小さな空胞変性やミトコンドリアの腫大がみられた。前発症期後期では、しばしばミトコンドリア内部に種々の大きさの空胞変性がみられた。また、ミトコンドリアの内膜および外膜のsplittingによるintermembrane space内に大きな空胞がみられ、内部には顆粒状あるいは無構造の物質がみられた。発症期では前発症期後期でみられたミトコンドリア内の空胞変性のほか、ニューロフイラメントが蓄積した中のミトコンドリアにも、しばしば空胞変性がみられた。これらの空胞変性は軸索内のミトコンドリアにのみみられ、前角細胞の胞体や樹状突起には認められなかった。免疫電顕では、大きな空胞内の顆粒状あるいは無構造物質にはSOD1陽性の金粒子の著明な沈着がみられたほか、軸索内の空胞変性を伴ったミトコンドリアにも金粒子の沈着がみられた。一方、正常と思われるミトコンドリア内には金粒子の沈着はみられないか、あるいはみられても軽度であった。以上の結果は、変異SOD1(G93A)トランスジェニックマウスでは神経細胞の変性過程の病態機序に、ミトコンドリアの異常が何らかの作用を成していることを示唆している。
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