家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS)の動物モデルである変異SOD1(G93A)導入マウス(Tg)を用いて、ALSの病態機序に軸索輸送の障害、ミトコンドリア(Mt)の異常あるいは凝集体の存在が関与しているかどうか、電顕および免疫電顕で検索した。(1)Non-TgおよびTgの脊髄前角細胞から直接出る近位部軸索、それぞれ総数91本および95本を観察した。Tgではnon-Tgに比較してneurofilament (NF)およびMtの増加している近位部軸索の本数がより多くみられた。(2)Tgでは発症前期からしばしばMt内部に種々の大きさの空胞変性がみられ、さらにMtのintemembrane space内に大きな空胞が認められ、空胞の内部にはしばしばSOD1陽性の顆粒状あるいは無構造の物質がみられた。発症期ではさらに、NFが蓄積した中のMtにも空胞変性がみられた。これらの空胞変性は軸索内のMtにのみ認められ、前角細胞の胞体や樹状突起には見られなかった。(3)凝集体は発症前期から主に前角の近位部軸索を含めた神経突起の中にみられ、細胞質内や樹状突起内にも稀にみられた。凝集体の超微細構造は、NFよりもやや太い線維から成り、ときに中心部に電子密度の高い芯がみられ、免疫電顕では、これらの凝集体にSOD1およびユビキチンの金粒子の沈着がみられた。発症期には、凝集体は灰白質のみでなく、軽度ながら白質全体にみられた。 以上の結果から、Tgではその発症機序に近位部軸索における軸索輸送の異常が関与していることが示唆され、最終的には神経細胞の変性・脱落を引き起こすものと推察される。
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