研究概要 |
運動神経損傷や筋萎縮性側索硬化症(ALS)をはじめとする運動ニューロン疾患に焦点をあて,運動ニューロンの変性脱落に対する治療法の開発について基礎的な研究を行った.成体ラットの顔面神経引き抜き損傷による顔面神経核運動ニューロン変性脱落モデルに対して,我々の作製した各種の神経栄養因子組換えアデノウイルスベクターを損傷部に局所接種した.組換えウイルス接種により,損傷運動ニューロンにおける外来性神経栄養因子の強い発現誘導を認め,グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF),脳由来神経栄養因子(BDNF),トランスフォーミング増殖因子(TGF)β2および神経成長抑制因子(GIF, MT-III)組換えウイルス接種により,傷害運動ニューロンの変性脱落が有意に抑制された.現在,肝細胞増殖因子(HGF)およびメタロチオネインーI組換えアデノウイルスを作製し,その保護効果を検討している.また,低分子化合物T-588およびMCI-I86の経口投与によっても傷害運動ニューロンの脱落が抑制されることがわかり,その作用機序についての解析をすすめている.一方,家族性ALSのモデルである未発症の変異SOD1(G93A, H46R)トランスジェニック・ラットに顔面神経引き抜き損傷を加えたところ,正常ラットに比べて傷害運動ニューロンの変性脱落が有意に促進され,変異SOD1ラットにおける外傷による運動ニューロンの易傷害性が明らかとなった.現在,変異SOD1組換えアデノウイルスを作製し,変異SOD1発現と軸索損傷との関連について検討を行っている.さらに,成体マウス,ラット末梢神経から培養不死化シュワン細胞株を樹立し,これらをもとにしてLacZ標識シュワン細胞株が得られた.これらシュワン細胞株および神経幹細胞を上記運動ニューロン変性脱落モデルに移植することにより,運動ニューロン死に対する細胞治療の基礎的知見が得られるものと考え,移植実験を遂行中である.
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