リルゾールは海馬における脳由来神経栄養因子の強力な合成促進剤であり、海馬顆粒細胞の前駆細胞の分裂も促進した。しかしながら、リルゾールには副作用のあることも報告されている。そこで、本年度は、創薬を念頭に置き、リルゾールにかわる脳由来神経栄養因子の合成促進剤を探すため、リルゾールにより活性化される細胞内シグナル伝達系路を調べた。ERK1/2、p38 MAPキナーゼおよびAktを中心に検討を行い、以下のことが判明した。 (1)リルゾールによってp38 MAPキナーゼのリン酸化が有意に、ERK1のリン酸化がわずかに上昇したが、Aktのリン酸化はまったく変動しなかった。 (2)p38 MAPキナーゼの阻害剤であるSB203580はキナーゼのリン酸化を阻害し、リルゾールによる脳由来神経栄養因子レベルの上昇を阻害した。一方、p38 MAPキナーゼの活性化剤は、キナーゼのリン酸化を促進し脳由来神経栄養因子のレベルを上昇させた。 (3)海馬の脳由来神経栄養因子レベルを上昇させる他の薬物、グルタミン酸アゴニスト(AMPA)、アデノシン受容体のアンタゴニスト(DPX)やメタボトロピックグルタミン酸受容体のアゴニスト(DCG VI)でもp38 MAPキナーゼおよびERK1のリン酸化が上昇した。 以上の結果から、海馬における脳由来神経栄養因子の合成促進には、p38 MAPキナーゼおよびERK1の活性化が必要であることが明らかとなった。
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