アルツハイマー病患者にみられるような海馬における脳由来神経栄養因子の低下が神経細胞新生の低下や記憶障害の原因となる可能性が高いことから、本研究では、薬物投与により海馬歯状回の脳由来神経栄養因子の合成を促進させ、新生する神経細胞数の変化について調べると同時に、薬物による脳由来神経栄養因子の合成機構についても検討した。その結果、以下のことが判明した。 1)リルゾールという薬物は海馬顆粒細胞の脳由来神経栄養因子を顕著に上昇させるだけでなく、その連続投与は脳由来神経栄養因子量を高値に保ち、海馬顆粒細胞の前駆細胞数を増加させることが明らかとなった。また、新生した細胞の約9割が神経細胞に分化することも判明した。 2)リルゾールの連続投与による前駆細胞数の増加は分裂促進によるものであり、脳由来神経栄養因子の増加が必要条件であることも示唆された。 3)リルゾールによってp38 MAPキナーゼのリン酸化が有意に、ERK1のリン酸化がわずかに上昇したが、Aktのリン酸化はまったく変動しないことがわかった。 4)p38 MAPキナーゼの阻害剤であるSB203580はキナーゼのリン酸化を阻害し、リルゾールによる脳由来神経栄養因子レベルの上昇を阻害した。一方、p38 MAPキナーゼの活性化剤はキナーゼのリン酸化を促進し、脳由来神経栄養因子のレベルを上昇させた。これらの結果から、海馬における脳由来神経栄養因子合成の促進には、p38MAPキナーゼおよびERK1の活性化が必要であることが明らかとなった。
|