心筋梗塞の虚血再灌流を模すため家兔摘出灌流心(Langendorff法)標本を用いた。再灌流と同時に50μMのH_2O_2を負荷し、力学的・血行動態的指標、梗塞心筋量(TTC法)から心筋障害度を検討した。H_2O_2負荷群では梗塞増大と機能回復遷延を示し心筋障害の著明な増強を認めた。5分虚血のプレコンデイショニング(PC)では、梗塞サイズの有意な縮小と、H_2O_2負荷障害の抑制を認めた。心筋細胞DNA塩基のOH障害産物である8-hydroxydeoxyguanosine(8-OHdG)含量を抽出DNAで検討した。虚血再灌流により8-OHdGは有意に増加したが、PCはこれを抑制した。H_2O_2負荷により8-OHdG含量は2倍以上増加したが、PCはH_2O_2負荷障害をも抑制した。PC自体で組織中GPx活性は不変、還元型GSH含量は有意に増加し、H_2O_2負荷によるGSHの減少はPCで抑制された。以上より、虚血再灌流心筋障害において、GSH保持によるレドックス制御の重要性が明らかになった。虚血と再灌流終了各時点で採取した心筋組織標本を用いて、抽出タンパクから塩基除去修復(base excision repair:BER)機構を担うエンドヌクレアーゼの発現変化を検討した。免疫組織染色では、明らかな発現増強は検出し得なかったが、westernでは梗塞境界領域での発現増加を検出した。また抗酸化薬ebselenによる薬理学的PCでは、HSP72の発現増強を介して虚血再灌流心筋の8-OHdG含量が減少することを明らかにした。培養心筋細胞によるin vitroの検討で、特異的HSP阻害薬KNK437はこれらの心筋保護過程を消去することが確認された。これはシャペロンを介したエンドヌクレアーゼ活性増強の関与を示すものであり、BERを介する虚血再灌流心筋障害軽減効果を明らかにするものである。
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