心筋のエネルギー代謝異常は心不全の病態進行を助長する。ダール高血圧性心不全ラットでは、心不全発症前の代償性心肥大期に主なエネルギー基質は脂肪酸からグルコースヘ移行する。しかし、この時期では既に脂肪酸のβ酸化が障害され、インスリンクランプ法によるグルコース取り込み予備能も著しく低下した。高血圧性肥大心では、心筋のATP含量が低下しており、心不全発症前の代償期におけるエネルギー産生予備能低下がその後の心不全進展に関与している可能性が示唆された。本モデルにアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)を長期間投与すると心不全の進展は抑制されたが、グルコース取り込み予備能は改善しなかった。しかし、ACEIによって脂肪酸取り込み能の改善が認められた。アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)でも同様な結果が得られ、この脂肪酸の取り込み能改善が脂肪酸β酸化の改善を伴うかについて現在検討を進めている。また、マイクロダイアリシス法を用いて、心筋間質のノルエピネフリン濃度を測定しており、ACEIやARBによる交感神経抑制がどのように心筋代謝に影響するか検討中である。また、虚血再灌流時の脂肪酸代謝に及ぼす交感神経の影響について検討した。虚血時に生じる心筋細胞への脂肪酸蓄積は心筋に悪影響を及ぼす。カルベジロールを投与すると、心筋への脂肪酸取り込みは抑制され、かつ取り込まれた脂肪酸のクリアランスも改善した。このようにβ遮断薬による交感神経抑制は虚血時の心筋脂肪酸蓄積を抑制することによっても心筋保護に働くことが示唆された。
|