研究概要 |
全身性カルニチン欠損症モデルであるJVSマウスでは、心肥大が誘発されるが、その正確な機序はほとんど明らかにされていない。このモデルではカルニチン補充により心肥大が抑制されることや心筋に脂肪が蓄積されることがわかっているので脂質関連の細胞内刺激伝達系の異常による心肥大であるとの仮説を立て検証した。このモデルに近い、カルニチンの心筋内流入を阻害する薬剤であるcarnitine-palmitoyltransferase I阻害剤のetomoxirの投与による心肥大を比較検討した。心体重比は8週齢でコントロール群と比較して、JVS群で2.5倍、etomoxir群で1.3倍と増加していた。4週令のJVS群において、すでに心筋の1,2-diacylglycerol(以下DAG)量はコントロール群と比べ増加傾向にあった。8週令にてJVS、etomoxir群にて著明に増加していたが、カルニチンにより肥大を抑制できたJVS群と比べ有意に減少していた。ceramide量に関しては変化認められなかった。心筋内DAGの脂肪酸分画はJVS群では4、8週令での脂肪酸組成に相違はなく、18:1(n-9)、18:2(n-6)の著明な増加を認めた。etomoxir群でも同じ脂肪酸組成パターンを示した。他の脂質の脂肪酸組成をDAGと比べるとJVS群においてphosphatidylcholine(以下PC)とDAGの脂肪酸組成パターンはよく似ていたが、phosphatidylinositol(以下PI)においても18:1(n-9)、18:2(n-6)の増加は認めた。trigricerideに関してはほとんど相同性を認めなかった。上昇した1,2-DAGはその脂肪酸組成からPC由来が主と考えられるが、PI由来も関与する可能性が示唆された。以上より、今回の遺伝的に生じた心肥大モデル(JVS)、etomoxirによる心肥大モデルの両方のβ酸化障害モデルにおいて、1,2-DAGの量、及びその脂肪酸組成の変化は心肥大のシグナルとして重要と考えられた。
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