マウスES細胞の試験管内分化による血管リモデリングの細胞生物学的解析

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14570658
• 研究機関: 熊本大学
• 研究代表者: 小川 峰太郎 熊本大学, 発生医学研究センター, 教授 (70194454)
• キーワード: 血管内皮細胞 / 胚性幹細胞 / タイムラプス解析 / 血管新生 / 細胞運動 / アドヘレンスジャンクション / 血管内皮増殖因子 / 転写因子

研究概要

本研究の目的は、血管形成のメカニズムを解明するために、血管形成に関与する成長因子の細胞レベルにおける機能を理解することにある。主要な実験システムとしてマウスES細胞の試験管内分化系を用いている。ES細胞から中胚葉細胞を経由して分化誘導した血管内皮細胞は血管形成を行う発生初期の分化段階に相当し、生体に移植することで実際の血管新生に寄与することを前年度までに示してきた。ES細胞による血管内皮細胞の分化誘導は試験管内で直接観察できるため細胞生物学的な解析に適している。VEGF-Aによるシグナルが血管内皮細胞の伸長と細胞間の密着性低下をもたらすのに対し、VEGF-Cによるシグナルはこれに拮抗して密着性を維持させることを前年度までに明らかにした。今年度は、PI3Kの下流でAkt/PKBによって負に制御される転写因子FOX01/FKHRを欠損するES細胞から分化誘導した血管内皮細胞が、VEGF-Aによる刺激に対して伸長反応を示さず、異常な形態変化を示すことを見出した。FOX01ノックアウトマウスは発生過程で、鰓弓・大動脈弓の形成不全、頭部血管および卵黄嚢血管のリモデリング不全などを呈し、胎生致死となった。従って、VEGF-Aによる血管内皮細胞の伸長反応にはFOX01の機能が必須であることが明らかとなり、血管系の発生にこの伸長作用が重要な役割を果たすことが示唆された。一方、VEGFファミリー以外の重要な血管形成因子であるAngiopoietin-1(Ang-1)が、in vivoにおいて血管平滑筋非依存的に血管リモデリングを促進すること、およびin vitroにおいて血管内皮細胞の運動性を抑制することを前年度までに示した。今年度は、アドヘレンス・ジャンクションの阻害が血管内皮細胞の運動性を低下させることを明らかにし、Ang-1の機能として細胞運動の直接的制御もしくはアドヘレンス・ジャンクションの安定性調節の2つの可能性が存在することを示唆した。

研究成果

• [文献書誌] Fraser Stuart: "Embryonic stem cell differentiation as a model to study hematopoietic and endothelial cell development"Methods Mol.Biol.. 185. 71-81 (2002)
• [文献書誌] 宮下浩輝: "A mouse orthologue of puromycin insensitive leucyl-specific aminopeptidase (PILSAP) is expressed in endothelial cell and plays an important role in angiogenesis"BLOOD. 99・9. 3241-3249 (2002)
• [文献書誌] 植村明嘉: "Recombinant angiopoietin-1 restores higher order architecture on growing blood vessels in absence of mural cells"J.Clin.Invest.. 110・11. 1619-1628 (2002)
• [文献書誌] 松村和宜: "Modulation of VEGFR-2-mediated endothelial-cell activity by VEGF-C/VEGFR-3"BLOOD. 101・4. 1367-1374 (2003)
• [文献書誌] 平島正則: "A chemically defined culture of VEGFR2+ cells derived from embryonic stem cells revealed the role of VEGFR1 in tuning the threshold for VEGF in developing endothelial cells"BLOOD. 101・6. 2261-2267 (2003)
• [文献書誌] 万木貴美: "Effective contribution of transplanted vascular progenitor cells derived from embryonic stem cells to adult neovascularization in proper differentiation"BLOOD. 101・7. 2675-2678 (2003)