(緒言)近年、不全心におけるβ受容体刺激に対する収縮反応性の低下、心筋エネルギー効率悪化の原因の一つに酸化ストレスが関与していると報告され、抗酸化薬による改善効果が期待される。今回、ヒト不全心において、2種類の抗酸化薬を用いて心収縮性と心臓エネルギー効率の変化を検討した。 (方法)発症から4週以上経過した初回前壁心筋梗塞による心不全患者24例(年齢62±3才、左室駆出分画42±1%)を対象とした。コンダクタンス法を用いて左室収縮性(E_<max>:収縮期末圧容積関係の傾き)と心筋エネルギー効率(EW/MVO_2:圧容積ループから求められる左室外的仕事量と1心拍あたりの心筋酸素消費量の比)の変化を比較検討した。測定はドブタミン(Dob)4μg/kg/min持続投与下にアスコルビン酸(n=10、2.0gボーラス投与後50mg/min、10分間持続投与)、還元型グルタチオン(n=9、600mg/min、10分間投与)、の投与前後で行った。 (結果)Dob投与でE_<max>(65±12%)、EW(45±8%)、MVO_2(29±7%)は増加し、心筋エネルギー効率は変化しなかった(9±7%)。アスコルビン酸の追加投与でE_<max>(22±7%)、EW(20±4%)は増加したが、MVO_2は変化せず(0±3%)、エネルギー効率はDob単独投与に比し21±5%改善した(p<0.01vsDob)。また、グルタチオン追加投与でE_<max>(49±12%)、EW(36±7%)、MVO_2(8±9%)は増加し、エネルギー効率は31±7%改善した(p<0.01vsDob)。 (結論)本研究は、心筋梗塞後の心不全患者において、抗酸化薬であるアスコルビン酸と還元型グルタチオンが、β受容体刺激に対する収縮性の反応を増強させ、心筋酸素消費量は増加させず、エネルギー効率を改善することを明らかにした。酸化ストレスは糖尿病、動脈硬化のみならず、心不全の病態形成に重要な役割を演じており、酸化ストレスの制御は心不全治療の新たな戦略となる可能性が考えられた。最近の研究では、進行した心不全においては、抗酸化薬による、心収縮反応増強効果は、健常心に比し減弱しているとするものがある。今回の対象患者では、重症例においても抗酸化薬による効果が認められたが、リモデリングが進行し神経体液性因子の賦活化が完成する以前の、中等度心不全に対して、より奏功する治療であるのか、今後さらに検討を重ねる必要がある。
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