冠動脈壁に形成された動脈硬化プラークの表面の破綻は狭心症や急性心筋梗塞を発症する原因となる。易破綻性の不安定なプラークをイベントの生じる前に早期に同定することが可能となれば、冠動脈疾患に対する新しい治療法に繋がる可能性がある。プラークの不安定化は、プラークの線維性被膜の菲薄化、脂質含有量の増加、炎症細胞浸潤の増大などによってもたらされることは、過去の病理組織学的検討でわかっている。そしてそのような構造変化によりプラーク内の応力分布に不均衡が生まれ、プラークの破綻が引き起こされると考えられる。本研究の目的は冠動脈プラークの組織性状を血管内エコーを用いて同定し、さらにその結果からプラークの応力分布を計算してカラー表示することにより破綻しやすいポイントをもつ不安定プラークの同定を可能にする方法を開発することにある。その前段階として、本年度は、急性心筋梗塞ならびに不安定狭心症の患者において、冠動脈プラークの破綻した部位を血管内エコー法の短軸像ならびに長軸再構築像にて観察した。さらに有限要素法による解析が可能なプログラムANSYS(サイバーネットシステム社)を用いてプラークの形状や組織性状についての様々なパターンを想定してプラークの応力分布のカラーマッピングを行い、どの部分に応力集中がおきるかをシミュレーションした後、実際の像と比較検討した。血管内エコーによる実際のプラークの破綻像の解析によれば、低輝度プラークで底部に石灰化を来しているプラークに破綻が起こりやすいことがわかった。またシミュレーションによれば、石灰化はプラーク破綻に予防的に働き、一方脂質や線維性被膜の菲薄化はプラークの局所に応力集中をもたらすことが判明した。この研究成果は第68回日本循環器学会学術総会で発表した。
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