研究は血管壁細胞において活性酸素によって活性化される(レドックス感受性)転写因子を同定し、その機能を解析することを目的とする。 平滑筋細胞を過酸化水素(H2O2)で刺激したところ、先に我々がアンジオテンシンによって活性化されることをみいだしたcAMP response element binding protein(CREB)が活性化された。アンジオテンシンによるCREBの活性化が抗酸化剤であるN-acetylcysteineにより抑制されたことから、アンジオテンシンのシグナル伝達経路においても活性酸素が重要な役割を果たすことが考えられた。Dominant negative CREBを過剰発現させるとH2O2によるc-fos mRNAの発現が抑制された。これらのデータよりCREBはレドックス感受性の転写因子であり、平滑筋細胞の遺伝子発現に重要な役割を担うことが示唆された。またCREBのdominant negative変異体をアデノウイルスベクターにより過剰発現させると、平滑筋細胞においてBcl-2の発現が低下すると共にアポトーシスが生じることがわかった。またラット頸動脈のバルーン傷害後にdominant negative CREBを感染させるとTUNEL陽性の細胞が増加し、新生内膜の形成が抑制されることを明らかにした。アンジオテンシンやH2O2以外に腫瘍壊死因子(Tumor necrosis facto : TNF)もCREBを活性化した。CREBはTNFによる平滑筋細胞の遊走に関与していた。またCREBの活性を制御する生体内因子として甲状腺ホルモンが重要であることをみいだした。アンジオテンシンIIによるCREBの活性化は甲状腺ホルモンの濃度依存性に抑制された。現在甲状腺ホルモンの作用機序について検討を進めている。
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