近年、冠動脈造影で観察できない冠微小血管の機能的な異常(攣縮)が、微小血管狭心症における心筋虚血の発生に深く関与していることが明らかになってきた。しかしながら、どのような分子細胞学的変化が、微小血管レベルでの血流調節の破綻に寄与しているかについてはほとんど明らかになっていない。 本研究により、我々は、血管平滑筋のRhoA/Rho-kinase系の活性亢進が、冠微小循環系の血流調節障害を引き起こし、その結果心筋虚血発症の原因となっている、という仮説を検証すべく、冠微小血管攣縮性狭心症の患者における心筋虚血が、Rho-kinase阻害薬であるfasudilによって抑制できるか否かについて検討を行った。 冠動脈造影上、器質的狭窄を有さず、アセチルコリンの冠動脈内投与によって、心表面の太い冠動脈に攣縮が生じないにもかかわらず、心筋虚血(虚血性心電図変化もしくは心筋乳酸産生)を生じる、冠微小血管攣縮性狭心症患者18例を対象とした。アセチルコリンによって心筋虚血を誘発させた後、5例には生理食塩水、13例には4.5mgのfasudilを冠動脈内投与し、再度アセチルコリンによる誘発試験を行った。 生理食塩水を前投与した群では、二回目のアセチルコリン投与によって心筋虚血が再現された。これに対して、fasudilを前投与した群の13例中11例では、二回目のアセチルコリン投与による心筋虚血は生じなかった。アセチルコリン投与時の乳酸消費率は、fasudilの前投与によって有意に改善した。 このことから、RhoA/Rho-kinase系の活性亢進が、冠微小循環系の血流調節障害を引き起こし、その結果心筋虚血発症の原因となっており、Rho-kinaseを阻害することが、冠微小血管攣縮性狭心症患者の新たなる治療法として有効であることが示唆された。
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