研究概要 |
我々の研究目的は(1)in vivo modelにおいて、成長ホルモン(GH)は、左室拡張能および心線維化に対しどのような影響を及ぼしているのか(2)GHあるいはinsulin-like growth factor-1 (IGF-1)のいずれかが抗線維化作用を示すメカニズムは何かを解明し、難治性心不全に応用されうる可能性を模索するところにある。 まず動物モデルとして4週令、雌のWistar-Furth ratを使用し、以下の3群に分類した。(1)GH group ; mGH3 cell lineを皮下組織に移植することで、成長ホルモン産生腫瘍移植ラットを作成し、GH過剰状態のモデルとした。(2)Angiotensin II (Ang II) group;浸透圧ポンプを用いて血圧の上昇しない量のAng IIを持続的に注入した。(3)Control group。治療開始8週間後に、超音波心臓検査を施行し、3群間の心機能、形態学的変化の検討を行った。次にsacrifice後、得られた心臓に対し、Western blotによる細胞外マトリックス蛋白(ECM)、およびTGF-beta発現の検討、HE染色、Azan Mallory染色による病理組織学的検索、及びin situ zymographyによるMatrix Metalloproteinase (MMP)活性の評価を行った。またin vitro studyとしては、新生仔SDラット心室筋初代培養系より心線維芽細胞を培養し、GH、IGF-1添加による細胞増殖の検討、Western blotによるECM蛋白およびp38MAPKとそのリン酸化発現の検討、また転写調節レベルとしてluciferase reporter systemを用いた検討をそれぞれ行った。その結果、in vivoにおいて、GH群はcontrol群に比し相対的心重量、および相対的壁肥厚の増加を認めたが、左室機能障害をきたさなかった。GH群ではECM蛋白の発現軽度であり、MMP活性の亢進もみられなかった。in vitroにおいて、GH,IGF-1およびTGF-beta添加により細胞増殖がみられたが、GH,TGF-beta併用による相乗効果はみられなかった。一方GH,TGF-beta併用によりECM蛋白発現は抑制され、転写活性レベルでも同様の結果が得られた。さらにGH,TGF-beta併用によりp38MAPKのリン酸化が抑制された。 以上より成長ホルモンは、左室機能障害や線維化を伴わない心肥大をもたらす。そのメカニズムの一つとしてGHはp38MAPKの脱リン酸化によるTGF-beta signalingをdownregulateすることにより線維化抑制性に働いている可能性が示唆された。
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