申請者らは『循環調節因子アドレノメデュリンの病態における意義と治療薬、診断薬としての臨床応用』を目的として、各種の循環器疾患の病態モデルやヒトにおける臨床研究により、以下の研究業績を挙げた。 1.ラットの高血圧性腎障害モデルにおいて、アドレノメデュリンの長期投与は腎障害を組織学的に改善し、蛋白尿を減らし、その機序として腎臓内のレニン-アンギオテンシン系の抑制が関与していることを示した。 2.悪性高血圧ラットモデルにおいて、アドレノメデュリンの長期投与は腎障害を組織学的に改善し、予後を改善することを示した。その機序として、腎臓内のアンギオテンシンIIからTGF-βにいたる経路の抑制が考えられた。 3.心臓手術時に心嚢液を採取し、アドレノメデュリンの分子型を測定し、その病態生理学的意義について検討した。安定狭心症に比べて、急性冠症候群ではアドレノメデュリンが有意に高かった。また、心嚢液中の分子型はアドレノメデュリン-matureがアドレノメデュリン-glycineとほぼ同等、高くなっていることが判明した。心嚢液中のアドレノメデュリンは心機能が悪い程高く、心機能低下を代償する防御機序と考えられた。 4.褐色細胞腫患者のアドレノメデュリンの血中の起源として、1つは副腎が考えられているが、その真偽は不明であった。そこで褐色細胞腫患者の副腎静脈中のアドレノメデュリンの分子型を測定し、検討した。褐色細胞腫患者の副腎静脈中のアドレノメデュリン濃度は両分子型ともに他の部位からとった濃度と変わらなかった。このことは我々が以前から提唱している、「血管壁が血中のアドレノメデュリンの起源である」という仮説に一致する所見であった。 以上からアドレノメデュリは高血圧性腎障害や虚血性心疾患の病態を代償する方向で働くことが示唆され、さらにアドレノメデュリン投与は悪性高血圧などの病態の治療薬となる可能性が示唆された。
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