研究概要 |
自閉症は言語/認知障害、対人関係の障害を主症状とする、脳の広汎性発達障害であるが、詳細な病態は未だ解明されていない。私たちはこれまでにヒトで妊娠中の内服により高率に自閉症を発症することが知られているサリドマイド(THAL)、バルプロ酸ナトリウム(VPA)の二種類の薬剤を妊娠ラットに用いることにより、セロトニン神経系の異常を呈することを発見し、自閉症モデルラットとして報告した。本研究課題では、さまざまな行動実験を用いた自閉症モデルラットの行動解析を重点的に行った。その結果、1.モリスの水迷路試験においては自閉症モデルラット群と正常群との成績の差はみられなかった。2.八方向放射状迷路試験において、自閉症モデルラット群ではTHAL, VPAいずれの投与群においても正常コントロール群に比較して学習記憶において有意に劣っていることがわかった。また、自閉症モデルラットにおいては、意味・目的のない動き(非探索的行動)が正常群に比較して多かった。3.オープンフィールドテストで90cm四方の試行箱内での行動を3日間連続、20分間ずつ観察しその行動量を総移動距離で測定し比較したところ、初日の試行においては、THAL群、VPA群共に行動量が正常群に比較して有意に増加していたが、連続した3試行により、その差は消失した。また、7日間のインターバルをおいたあとの第4試行では、THAL群で再び行動量が増加しており、自閉症モデルラット群は、新規の環境において、行動量が増加することが明らかになった。さらに4.社会相互作用テストにおいては、VPA群では、総社会相互作用出現時間が正常より有意に低下していた。これらの行動実験の結果より、本モデルラットにおいては、意味のない動きの増加や不慣れな場所でのパニックや社会性の欠如などのヒト自閉症にも共通する行動学的異常がみられ、本ラットは、自閉症の本態に迫るモデル動物となりうることが示唆された。
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