Gsα蛋白遺伝子(GNAS1)の転写調節はジェネティック、エピジェネティックな機構により制御を受け、組織特異的ゲノム刷り込み現象がみられるとされている。基礎的、臨床的検討からその発現制御機構について解析した。PTHの標的組織である腎近位尿細管におけるGsα蛋白の発現は母性アリル優位であると考えられているため、GNAS1プロモーター領域にDNAメチル化異常がある偽性副甲状腺機能低下症Ib(PHP-Ib)において近位尿細管由来と考えられる尿中落下細胞でのmRNA発現をRT-PCRにより検討した。DNAメチル化の異常状態にも関わらずGsα蛋白のmRNA発現は両アリルの発現がみとめられ、Gsα蛋白の組織特異的なゲノム刷り込み現象にはGNAS1遺伝子のDNAメチル化だけでなく、高度な分化による他の因子の関与が必須であることが判明した。孤発性のPHP-Ib14例におけるDNAメチル化の詳細な検討では、GNAS1プロモーター領域(NESP55、AS、エクソン1A領域)に母性メチル化パターンの消失を認め、XLαs領域のメチル化パターンは、部位によってケースごとの違いがあった。うち8例で検討したすべての部位で母性メチル化パターンの消失を認め、このうち4例で発達遅滞などの特異的臨床症状があったため、エクソンXLの5'側および3'側の領域のCpG部位ごとのメチル化状態についてbisulfite PCRにより詳細な検討を行った。臨床症状に特異的なメチル化パターンはなく、PHP-Ibでのこの領域のCpG部位のメチル化異常はアリルとしての一貫性を喪失していることが明らかになり、XLαs領域のメチル化パターンは他の領域のDNAのエピジェネティックな異常によって二次的に生じたものであることが示唆された。
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