重症感染症やショック症候群など、強い生体反応を伴う急性炎症性疾患では単球活性化に伴うサイトカイン産生がショック症状や全身臓器傷害など、いわゆるマクロファージ活性化症候群と呼ばれる病態を惹起することが知られている。病原体の侵入に伴うこのような致死的な生体反応を防ぐためには、過剰な炎症反応を制御し、感染の終息に向かう免疫応答が正常に機能することが必要とされる。また種々の炎症性疾患では、組織や臓器にマクロファージが浸潤、これが病態形成に積極的に関与していることが想定されているが、一方でマクロファージ自身が炎症を制御する役割を果たしている可能性も示唆される。このような単球・マクロファージ由来の炎症制御因子として注目されるのが、ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)ならびにその代謝産物である。 HO-1の産生は種々のストレス刺激により速やかに誘導されること、我々が報告したHO-1欠損症では恒常的に強い炎症反応が観察されたことなどから、本酵素が単球を中心とした免疫応答の調節機構として決定的な働きをしている可能性が示唆される。またHO-1遺伝子上流のpromotor領域にあるGTくり返し配列の多型がHO-1発現レベルと関連し種々の炎症性疾患の発症に関与している可能性が報告されている。このことは、HO-1欠損例でなくても、HO-1遺伝子あるいはpromotor領域の遺伝子多型によりHO-1発現の量的な変化が起こり、炎症病変の増悪に関与する可能性を示唆している。 本研究では末梢血単核球によるHO-1産生調節機構を解明し種々の炎症疾患の病態形成におけるHO-1産生細胞の関与を明らかにすること、さらにHO-1を利用した新たな炎症制御戦略の開発を目的として、種々の検討を行った。 今回の検討では、末梢血白血球の内、単球がHO-1産生の主体であること、種々の急性炎症性疾患では単球のHO-1産生が亢進することが示された。また、このような単球によるHO-1産生の亢進が種々の単球表面抗原発現の変化を伴う、単球活性化により誘導されることが示唆された。さらに、HO-1産生が単球の一部の分画に選択的に認められることから、これらの単球亜群を標的として、抗炎症剤による治療戦略の開発をすすめることが可能であると考えられた。
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