研究概要 |
小児の慢性、進行性腎疾患に共通する細胞生物学的特徴は、糸球体メサンギウム細胞(MC)や腎間質線維芽細胞(Fib)によるコラーゲン(COL)基質を中心とした細胞外基質(ECM)の異常リモデリングであり、最終的には糸球体硬化、間質線維化からなる腎線維症を呈する。本研究では、腎線維症発症に関わる異常なCOL基質リモデリングの分子生化学的機序を、COL結合インテグリン(IG)を介したシグナル伝達の観点から分析した。 1)組織線維化現象(COLリモデリング)のin vitroモデル、COLゲルコントラクションアッセイを用いたIG機能の検討:腎間質線維化促進因子であるTGF-βは、培養Fibのα1β1,α2β1IG発現を刺激することによりCOLリモデリングを亢進させた。この作用に加えてをTGF-βはFibのα-SM actinの発現も亢進させることが判明した。これらFibのCOLリモデリング能力は抗α1,α2IG機能阻害抗体により阻害され、電顕的観察でも太いCOL繊維の形成が抑制されており、IGの組織線維化現象における重要性が明かとなった。 2)COLリモデリングにおけるα1β1IGシグナルの役割検討:シグナル伝達阻害薬やドミナントネガテイブDNA vectorを用いて検討したところ、COLリモデリングの過程でα1β1IGシグナルより発生するシグナルとしてERK-AP-1シグナルが重要であった。このシグナル経路を阻害すると異常なCOLリモデリングを制御できる可能性がある。 3)片腎抗Thy-1腎炎は進行性腎炎に見られるECMの異常リモデリング像を呈する腎炎モデルである。この腎炎を用いてIGシグナルの分析を試みた。異常ECMリモデリング像がピークになる時期に、ERKシグナルやIG結合カイネース(ILK)が増強することが判明した。今後は、IG関連細胞内シグナル分子の活性化を阻害する薬剤を発見し、小児腎疾患め進展を抑制する研究を行う必要がある。
|