研究概要 |
[背景]Aktは心筋細胞における生存シグナル伝達の中心をなす分子の一つである。心不全治療を目的としたAkt遺伝子導入はこれまで恒常活性型(myr-Akt)が用いられてきたが、myr-Aktは主に細胞質内で生理的範囲を逸脱した活性を示し、そのtransgenic mouseは肥大型心筋症を呈してしまう。そこで我々はAktの抗apoptosis作用の中心が核内に存在することに注目し(Circ Res.2001;88:1020-1027)、細胞型Aktに核移行signalをつけたadenovirus(Ad)、transgenic mouse(TG)を作成した。Akt/nuc Adは低酸素や低血糖刺激から心筋細胞を保護し、またAkt/nuc TGは心肥大をきたすことなく虚血-再還流モデルで心筋梗塞を抑制することを報告した(Circ Res 2004,in press)。今回はAkt/nucの作用機序を明らかにする目的で、細胞質でのAktの標的基質であるBADとGSK3bの発現を検討するとともに、Akt/nucが心筋細胞のDNA合成や多核化に及ぼす影響、さらには心筋細胞でのgene profileをwild typeや他のTGと比較検討した。[方法と結果]1)46週齢のwild type、Akt/nuc TG、IGF-1 TG、myr-Akt TGより心筋細胞を単離し、Western blotによりphospho-BAD、phospho-GSK3bの発現を検討した結果、IGF-1TG、myr-Akt TGではBAD、GSK3bともに高度なリン酸化が認められたが、Akt/nuc TGではwild typeと変化がなかった。2)心筋細包の核数計測およびflow cytometerによる核DNAの定量を行ったところ、Akt/nucには心筋細胞核の多核化や多倍体化は認められなかった。3)Akt/nucの心筋細胞mRNA発現をDNA microarrayによりwild typeと比較検討したところ両者のgene profileは異なり、Akt/nucにおいてPGDS、PTPN2がdownregulateしていた。[結論]Akt/nucは心筋肥大をきたすことなく、IGF-1、myr-Aktとは異なる作用機序で心不全をもたらす様々な刺激から心筋細胞を保護することが判明した。Akt/nucは慢性心不全に対する安全かつ有効な治療法として応用できる可能性が示唆された。
|