t(17;19)(q22;p13)転座を有するPro-B細胞性急性白血病(t(17;19)^+ALL)は小児ALLの約0.5%に生じる稀なALLである。t(17;19)によりE2A-HLF融合転写因子を生じ、初発時より高カルシュウム血症や出血の合併症を生じる予後不良のALLである。E2A-HLF融合転写因子はIL-3依存性マウスリンパ球においてIL-3を除去しアポトーシスを誘導してもアポトーシスを阻止できることは報告されている。今回の研究で急性前骨髄性白血病(APL)の線溶異常症の原因遺伝子の一つとして同定された、カルシュウム依存性に細胞膜リン脂質結合蛋白annexin IIがt(17;19)^+ALLにも関与していることを証明した。Annexin IIはAPL細胞とt(17;19)^+ALLの4種の細胞株で高発現していたおり、さらにt(17;19)^-ALL細胞株にE2A-HLF強制発現するとannexin IIの発現を誘導できた。IL-3依存性細胞においてannexin IIはIL-3依存性に発現していた。その発現はRasシグナルパスウエー特にRas/phosphatidylinositol3-kinaseを介していることを証明した。更にIL-3非存在下でもE2A-HLFはannexin IIの発現を増加させていた。これらの結果はE2A-HLFがサイトカインが活性化するRasシグナルパスウエーを代償する事によりannexin IIが誘導されることを示している。これらの結果はannexin IIがE2A-HLFの下流遺伝子であることを示している。しかし、annexin IIの細胞表面の発現は4つのt(17;19)^+ALL細胞株で一定ではないことやこれらの細胞株を樹立した患者の初発時の臨床症状より、t(17;19)^+ALL細胞株の線溶異常症の原因遺伝子というより白血病浸潤や高カルシュウム血症との関連があるのではないかと示唆された。
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