後腎間葉細胞を用いた腎上皮細胞再生の試み

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14570772
• 研究機関: 慶應義塾大学
• 研究代表者: 粟津 緑 慶應義塾大学, 医学部, 専任講師 (20129315)
• 研究分担者: 藤田 尚代 慶應義塾大学, 保健管理センター, 助手 (90296624) ; 飛彈 麻里子 慶應義塾大学, 医学部, 助手 (20276306)
• キーワード: bFGF / LIF / MAPキナーゼ / 後腎間葉細胞 / p38 / ERK / 多発性嚢胞腎 / pcyマウス

研究概要

1.In vitroにおける後腎間葉細胞から上皮細胞への分化・誘導
bFGF刺激による後腎間葉細胞増殖・遊走およびbFGF、LIFによる上皮化におけるp38、ERKの役割を検討した。ラット後腎間葉細胞はPax2陽性、Wt-1は弱陽性、pancytokeratin、E-cadherin陰性で、腎幹細胞の特性を示した。活性型p38、ERKはbFGF刺激により増加した。bFGF刺激により[^3H]-thymidine取り込みと細胞遊走は増加したが、p38阻害剤SB203580、ERK活性化酵素MEK阻害剤U0126はこれらを抑制した。bFGF単独刺激では上皮細胞のマーカーE-cadherinの発現は誘導されなかったが、bFGF、LIF同時刺激によりE-cadherin発現増加が観察された。U0126はE-cadherin発現増加に影響を与えなかったが、SB203580はこれを著明に抑制した。以上、後腎間葉細胞においてp38、ERKはbFGF刺激により活性化され細胞増殖・遊走を媒介する。またbFGF、LIF共刺激によりE-cadherin発現が増加し、この過程にp38が関与することが示された。
2.pcvマウス嚢胞形成機序
多発性嚢胞腎モデルpcyマウス腎において嚢胞形成は胎生14日から認められ、日齢7では、嚢胞の拡大、増加がみられた。生後8週では近位尿細管の拡大が観察され、25週では腎臓はほとんど嚢胞で占められた。嚢胞における増殖のマーカーPCNA発現と嚢胞、間質におけるアポトーシスが観察された。また嚢胞上皮ではERK、活性型ERK、p38の発現増加と、JNKの発現減少が認められた。pcyマウス胎児腎器官培養系において、U0126存在下で培養した腎の嚢胞形成抑制が観察された。以上、pcyマウス腎嚢胞上皮細胞におけるMAPキナーゼの発現異常と、ERKが機能的に嚢胞形成へ関与している可能性が示された。

研究成果

• [文献書誌] 大森さゆ: "嚢胞性腎疾患におけるMAPキナーゼ"発達腎研究会誌. 10. 62-65 (2002)
• [文献書誌] Midori Awazu: "MAP kinase in renal development"Nephrol. Dial. Transplant.. 17[Suppl 9]. 5-7 (2002)
• [文献書誌] Midori Awazu: "The cyclin kinase inhibitor p27^<Kip1> is required for diabetic glomerular hypertrophy"J. Am. Soc. Nephrol.. 14(3). 699-708 (2003)
• [文献書誌] Midori Awazu: "The herbal medicine Sairei-to inhibits proliferation of rat mesangial cells"Nephron. 92. 652-659 (2002)
• [文献書誌] Sayu Omori: "Expression of mitogen-activated protein kinases in obstructive uropathy in fetal lambs"J. Am. Soc. Nephrol.. 13. 101A (2002)
• [文献書誌] Hisayo Fujita: "Cyclic stretch stimulates proliferation and Pax2 expression via p38 mitogen-activated protein kinase in a ureteric bud cell line"J. Am. Soc. Nephrol.. 13. 104A (2002)
• [文献書誌] Midori Awazu: "Gene expression profiling in rat model of tubulointerstitial fibrosis"J. Am. Soc. Nephrol.. 13. 117A (2002)
• [文献書誌] Mariko Hida: "Expression and role of RhoA/ROCK in renal development"J. Am. Soc. Nephrol.. 13. 100A (2002)
• [文献書誌] 大森さゆ: "ヒツジ胎仔尿路閉塞モデルにおけるMAPキナーゼの発現"小児腎臓病学会誌. 15(2). 54 (2002)
• [文献書誌] 藤田尚代: "培養尿管芽細胞周期的伸展刺激によるp38 MAPキナーゼの活性化"小児腎臓病学会誌. (印刷中). (2003)
• [文献書誌] 金本勝義: "周期的伸展刺激による培養マウス尿管芽細胞における腎発生分子群の変動〜多嚢胞性異形成腎のモデルとしての検討"発達腎研究会誌. (印刷中). (2003)
• [文献書誌] 飛彈麻里子: "腎発生におけるRhoA、ROCKの発現と機能的意義"発達腎研究会誌. (印刷中). (2003)