研究概要 |
データ・マイニング法の確立に向けて(永田・高橋・麦島):様々な細胞や組織より得られた大容量の遺伝子発現情報を、網羅的に解析するためには、短時間で信頼性の高い情報を抽出しうる、データ・マイニング法を確立する事が必要である。本年度私共は、昨年度までに準備した遺伝子発現データを用いて、異なる生物学的特徴を有する組織間で、生物学的特徴の差異に関与する発現遺伝子群の同定を試みた。また同時に、臨床検体を用いて遺伝子発現解析を進める際に汎用性があり、信頼性の高いデータを得る事が可能な、データ・マイニング法の確立を行った。 結果と考察:複数の正常肝組織と肝芽腫組織に対し、GeneChip^<TM>システム(Affymetrix,Santa Clara,CA)を用いて、各組織における約1700個の遺伝子の発現量を決定した。得られた情報から、統計学的手法(Mann-Whitney U 検定)と機械学習法の一つであるk-nearest neighbor法とを用いて、正常肝組織と胚芽腫組織とを100%正確に判別できる26遺伝子を同定した。選ばれた26遺伝子には、IGF2やIGFBP4といった、従来より肝芽腫組織で発現異常が報告されている遺伝子が含まれており、この結果は信頼性が高いと思われた(Nagata T et al.,Cancer Genet.Cytogenet.,2003)。同様の方法を用いて、複数の胎児肝組織と出生後期肝組織とを100%正確に判別できる33遺伝子を同定した。選ばれた33遺伝子の中には、細胞周期やDNAの複製と修復に関連した遺伝子・CYP450 familyに属する遺伝子・IGF-axisに属する遺伝子などが含まれており、この結果は信頼性が高いと考えられた(Nagata T et al.,Int.J.Mol.Med.,2003)。 本年度のまとめ:本年度までに私共は、マイクロアレイ法を用いて、正常肝組織および肝芽腫組織において、特異的な発現パターンを示す、遺伝子群の同定を行った。統計学的手法と機械学習法との併用は、異なる組織間で発現に差がある遺伝子群を同定する際に、信頼性の高い結果を得る事が可能な、データ・マイニング法の一つであると思われた。
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