ケラチンは細胞質内に線維状に分布する細胞骨格蛋白であり、細胞の形態維持に重要な役割を果たしている。近年のケラチン研究の進展には目覚ましいものがあり、ケラチン遣伝子および蛋白の研究は一部の遺伝性皮膚疾患の発症機序を明らかにするという全く予想されなかった展開をみせるに至った。しかし現在ケラチン病の疾患概念が確立したものの、解決すべき課題は多々残されている。また、先天性表皮水疱疾患者の病変皮膚を、電子顕微鏡で観察すると、基底細胞の細胞質(特に各周囲)にケラチン蛋白の異常凝集物が観察されるが、有棘層より上層の細胞では、そのような凝集物の数は次第に減少し有棘層上層の細胞において消失する。これらの凝集塊が何故消失するかに関しても現時点ではその機序は解明されていない。更に一般にケラチン病では空胞変性(vacuolar degeneration)と呼ばれる病理組織像も観察されるが、何故このように細胞質に空砲が生じるかについてもよく分かっていない。今回のわれわれの研究目的は、ケラチン病に認められる空砲変成が生じる機序ならびに異常ケラチン凝集塊の消失機序を明らかにすることである。 平成14年度の研究目標は、トランスフェクション用コンストラクトの作製と、Transient Transfectionの系の樹立を目標としていた。ヒトケラチン14cDNAをcultured human keratinocyte cDNA libraryよりクローニングする。このcDNAを用いて、PCR法によりケラチン14cDNAに変異を導入した。こうして得られた変異ケラチン14cDNAをpcDNA3.1/V5-HisTOPO vectorにサブクローニングしトランスフェクション用のベクター(transfection vector)を作製した。 上記のtransfection vectorとHis-tagged wild-type ubiquitin cDNAを含んだtransfection vectorをHaCaT細胞にcontransfectionを行った。contransfectionした細胞をV5に対する抗体で染めることにより、細胞質内に変異異ケラチン14とケラチン5よりなる凝集物が生じていることを確認した。現在免疫電顕を施行して、凝集物が変異ケラチン14ケラチン5よりなることを確認した。contransfectionした細胞をユビキチンに対する抗体で染めることにより、凝集物がユビキチン化されていることを確認した。さらにcontransfectionした細胞に対して免疫沈降法を施行、その後抗ユビキチン抗体で免疫部ブロットを施行して、変異ケラチン蛋白(変異ケラチン14)がユビキチン化されていることを確認中である。
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