研究概要 |
創傷治癒に際し、表皮細胞の細胞遊走活性化は、必要不可欠である。以前ラミニン-5α3鎖C末端のLG4ドメインが、細胞接着活性を持つことを示した。その接着受容体は、従来言われてきたようなインテグリンではなく、ヘパリン感受性をもつ膜型プロテオグリカンであるシンデカンであることを証明した。その知見に基づき、本研究期間で、シンデカンからのシグナルが、表皮細胞にどのような生物学的意味を持つかを調べた。まず細胞遊走の際に、表皮細胞が、ラミニン-5を合成し、足場として利用しているという立場から、遊走を「刺激する可能性」を検討した。 細胞遊走の際に、マトリックスメタロプロテアーゼ1(MMP-1)を分泌しているという従来の報告から、このLG4ドメインが、細胞に作用し、MMP-1を分泌させる可能性を調べた。LG4ドメイン組み換え蛋白、合成ペプチドを細胞に作用させたところ、MMP-1のmRNA発現量、蛋白の発現量共に増加した。サイトカインのスクリーニングを行った結果、IL-1βのオートクラインがMMP-1発現を制御していると判明した。さらに、IL-1βの発現には、p38MAPKが関与しており、MMP-1の発現には,p38MAPKとERKの両方が、ラミニンからのシグナル伝達に深く関与していることを発見した。ところが、線維芽細胞では、MMP-1のmRNA発現量、蛋白の発現量共に増加したものの、IL-1βのオートクラインは必須ではなく、p38MAPK, ERKの必要性が証明されたのみであり、表皮細胞との相違が明らかになった。本実験で明らかになったように、ラミニン-5α3鎖C末端のLG4ドメインがMMP-1を発現誘導するという事実は、創傷治癒における、ラミニン-5の生物学的な意義を示唆する。
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