研究概要 |
基底細胞癌(BCC)と良性付属器腫瘍の組織学的鑑別は、時に困難な場合がある。そこで、hedgehogシグナルの活性化を指標としたBCCの分子生物学的診断法の確立のため、Gli1,Gli2,PTCHの3つのHedgehogシグナル関連遺伝子の発現量を定量し、BCCと付属器腫瘍の分子生物学的鑑別が可能かを検討した。パラフィン包埋組織からproteinase K処理によりRNAを抽出してcDNAを作製した。その後Gli1,Gli2,PTCH mRNA発現量をreal time RT-PCR法で定量化した。BCC, SCCおよび脂漏性角化症の定型34例の解析では、3つの遺伝子の発現はBCCでのみ著明に上昇しており、分子診断が可能であった。なかでもGli1は感受性・特異性とも最も優れており、BCCの分子生物学的診断に有用であると考えられた。次に基底細胞様腫瘍の問題例34例について、3人の熟練した皮膚病理医の診断とGli1発現量による分子診断の一致率を検討した。病理医の診断は19例で完全に一致、15例では不一致であった。分子診断は病理医の完全一致19例では病理診断と一致していた。Gli1によるBCCとtrichoepithelioma(TE)の鑑別は困難であったが、TEではPTCH発現量およびPTCH/Gli2比が有意に低く、これらを指標とした鑑別診断が可能であると思われた。病理医の診断が不一致であった15例を詳細に検討したところ、trichoblastomaではGli1の発現が低いこと、病理医によって脂腺分化を伴うBCCと診断された例でGli1の発現が低い症例は脂腺系腫瘍である可能性が示唆された。以上の結果から、我々の開発したHedgehogシグナルを指標とした基底細胞癌の分子生物学的診断法の有用性が示された。
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