研究概要 |
発癌にはイニシエーションとプロモーションのステップを必要とするが、皮膚癌の予防には、可逆的な変化であるプロモーションを制御することが重要であり、またより実効的な手段と考えられる。本研究の目的は、紫外線発癌のプロモーターとして作用する分子を同定し、その制御を通じて紫外線発癌の抑制を試み、臨床応用を目指すことにあった。 1)テロメレースはほとんどの癌で活性化されている酵素であり、これを抑制することが発癌の抑制に重要である。紫外線がEGF受容体を活性化し、シクロオキシゲナーゼ2を活性化することを前年度の研究により見い出したが、同様にEGF受容体が有棘細胞癌のテロメレース活性に関与する可能性を有棘細胞癌細胞HSC-1を用い検討した。EGF受容体の抑制剤AG1478で処理するとテロメレース活性は抑制され、細胞増殖も抑制された。同時にテロメレースの触媒サブユニットであるhTERTの発現も低下した。HTERTの転写因子であるc-MycとSp-1の発現が低下し、c-Mycに競合するMad-1の発現は増加した。ERK,Src,Aktの抑制剤もテロメレース活性を抑制したが、AG1478による効果には劣るものであった。従って、EGF受容体の活性制御により発癌予防や腫瘍抑制が期待できると考えた。 2)アポトーシスの誘導は、発癌予防や腫瘍抑制に有効と考えられる。悪性黒色腫は抗癌剤に対する抵抗性が強く、難治性の腫瘍である。悪性黒色腫細胞の抗癌剤感受性を上げる手段として、大豆のイソフラボンであるゲニステインのアポトーシス誘導能力を検討した。ゲニステインで黒色腫細胞を前処理することによりシスプラチンによるアポトーシス誘導能が上昇した。ゲニステインとシスプラチンの処理にて抗アポトーシス蛋白であるbcl-2とbcl-xLの発現が低下し、アポトーシス誘導蛋白Apaf-1の発現が増強した。すなわちゲニステインが黒色腫の抗癌剤感受性を増強し、治療効果を高める可能性が示唆された。
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