目的と方法:Klotho早老マウスはKlotho遺伝子変異によりヒトの皮膚老化に類似した老年性皮膚萎縮をきたす。内分泌異常の一つとしてビタミンD3の過剰状態があり、臓器の早老変化との関連が示唆されている。5週令以降のKlotho早老マウスの老化徴候の著しい皮膚を対象として、包括的遺伝子発現プロファイリング(マイクロアレイ解析)と活性の変化している転写因子の高感度酵素免疫測定法によるスクリーニングを行うことによってマウスの皮膚老化モデルにおける、老化シグナルの伝達機構を明らかにすることが本研究の目的である。 結果:Klotho早老マウス皮膚ではビタミンD3過剰によって、抗ストレス・酸化に重要な役割を果たす、thioredoxin (TRX)の機能を抑制するvitamin D3 up-regulated protein 1 (VDUP1)の発現が亢進していることが見出された。TRXの抑制によって酸化ストレスが増加すると考えられた。複数の重要な転写因子を対象とした、転写活性スクリーニングにより転写因子SP1の活性低下が明らかになった。SP1はTRXによって制御される転写因子であり、TRXの機能抑制により活性が低下すると考えられた。その結果、ビタミンD3過剰状態はVDUP1発現を亢進させ、TRXの抑制とその下流でのSP1活性の低下が起きることが示唆された。また、遺伝子発現プロファイリングにて発現変化が確認された遺伝子にはSP1によって制御されるものがみいだされた。転写因子OCT1(線維芽細胞の増殖制御因子)の発現低下、成長因子・サイトカインではHGF、IL1、さらにelastinの発現低下が認められ、皮膚老化に直接的に関与すると考えられた。ビタミンD3は線維芽細胞の増殖を抑制することが既に報告されているが、ビタミンDレセプター以外のシグナリングの存在も近年次第に明らかにされており、老年性皮膚萎縮を示す皮膚において、上記シグナリングも機能している可能性が明らかにされ、アポトーシスなどとの関連も今後の検討課題となると考えられた。
|