研究概要 |
癌抑制遺伝子産物,p53はさまざまな細胞遺伝子を転写活性化することにより、各種細胞に細胞周期停止やアポトーシスを誘導する。p53ファミリーに属するp73とp51(p63、p73L、Ket)のうち、p51は皮膚と皮膚附属器の形成に必須であることが報告された。われわれは早くからp53ファミリーをアデノウイルスベクターに組み込み、これら蛋白質の細胞増殖抑制とアポトーシス誘導機構の研究を行なってきた。各種のメラノーマ細胞株を用いた実験では、p53やp73はメラノーマ細胞にアポトーシス誘導活性を示さず、p51のみが複数のメラノーマ細胞にアポトーシスを誘導した。SK-mel-118メラノーマ細胞はp51の高発現によって細胞の断片化とカスパーゼ3の活性化を伴う明確なアポトーシスを起こした。本研究では、SK-mel-118細胞にアデノウイルスベクターを用いてp51を高発現させ、デイファレンシャルデイスプレイ(DD)-PCR法とDNAマイクロアレイ法によって、p51に誘導され、細胞増殖および細胞分化に関与する細胞遺伝子の同定を試みた。DD-PCRとDNAマイクロアレイによってp51に転写誘導される細胞遺伝子を20以上同定した。これらのうち、ケラチノサイトに特異的に発現誘導される細胞遺伝子を少なくとも3種類(#1-#3)、メラノサイトの増殖に関係する細胞遺伝子を1種類(#6)同定した。細胞遺伝子#1、#2、#3は、p51によってケラチノサイト特異的に誘導されることが確認された。以上の結果から、表皮形成の過程では、ケラチノサイト特異的に複数の細胞遺伝子の誘導が起ること、そしてこれらの細胞遺伝子の転写誘導が表皮の形成に関与する可能性が示唆された。
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