前年度の研究において、in vitroで分化させたTh1あるいはTh2細胞(CD4^+)は、その各々の分化の過程でE-セレクチン・リガンド(ESL)と、その発現を制御する糖転移酵素であるfucosyltransferase VII(FucT-VII)及びケモカイン・レセプターCCR-4を活性化に応じて発現することにより、皮膚への遊走能を獲得することが明らかになった。本年度の研究では、これらの分子の発現が、Th細胞の分化の程度及び、サイトカイン環境によりどの程度変化するかを明らかにしたいと考えた。 1.Th1、Th2への分化が起こっていない段階のCD4^+細胞(nonpolarized Th cell;Th0)に対する、Th1(IL-12)、Th2(IL-4)環境の影響について検討を行った。Th0細胞はTh1環境下では、ESLに加えてCLAの強い発現を認める、皮膚への強力な遊走能を有する細胞にまで分化するが、Th2環境下ではESL発現の増加の段階でとどまり、CLA^+細胞への分化が起こらなかった。 2.一方、Th1に分化したCD4^+T細胞は、Th1環境からTh2環境にシフトした時に、恒常的なESL発現に加えて、CCR-4発現が誘導された。それに対し、Th2細胞は、Th2環境からTh1環境にシフトした時に、恒常的なCCR-4に加え、ESLの発現が誘導された。つまり、分化したTh1、Th2細胞は、その反対のサイトカイン環境にさらされた時に、最も皮膚に遊走しやすいphenotypeになることがわかった。これは皮膚のTh1/Th2バランスを保つ極めて効率の良い機序と考えられた。 以上の結果は、皮膚免疫系がT細胞の分化の程度、皮膚のサイトカイン環境に応じて、必要な時に必要な機能を持った細胞が皮膚に遊走出来るシステムとなっていることを示唆している。
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