研究概要 |
尋常性乾癬患者の表皮角化細胞では、T helper 1細胞の浸潤を促すIP-10,マクロファージの浸潤を促すMCP-1などのケモカインの産生が亢進しており、これらが皮膚の炎症を惹起する。女性では妊娠中、尋常性乾癬が軽快することが知られており、女性ホルモンが尋常性乾癬の発症、進行を抑制する可能性が示唆される。本研究では、ヒト表皮角化細胞のIP-10産生に対する17β-エストラジオールの作用を検討した。17β-エストラジオールは表皮角化細胞において、IFN-_γ刺激によるIP-10蛋白の放出、mRNA発現、IP-10プロモーター活性の誘導を抑制した。IP-10プロモーター上のinterferon-stimulated response element(ISRE)が17β-エストラジオールによるIP-10転写の抑制に関与しており、17β-エストラジオールはIFN-_γ刺激によるJak1/2,STAT1_αのチロシンリン酸化を抑制することにより、STAT1_αのISREへの結合と転写活性を抑制した。cAMP合成酵素アデニレートサイクレースの阻害剤は、17β-エストラジオールによるIP-10産生の抑制、Jak1/2,STAT1_αのチロシンリン酸化の抑制、STAT1_αのDNA結合、転写活性の抑制を解除し、cAMPアナログは17β-エストラジオールと同様の抑制作用を示した。17β-エストラジオールは表皮角化細胞のアデニレートサイクレース活性を増強し、cAMPシグナルを誘導した。細胞膜非透過性のbovine serum albumin結合型エストロゲンは表皮角化細胞表面に結合し、17β-エストラジオールと同様に、cAMPシグナルを誘導し、IFN-_γ刺激によるIP-10産生を抑制した。したがって17β-エストラジオールは表皮角化細胞の膜に結合し、cAMPシグナルの誘導を介して、IFN-_γによるJak-STATシグナル伝達系を抑制し、IP-10産生を抑制すると考えられる。以上の結果から、17β-エストラジオールが表皮角化細胞のIP-10産生を抑制し、T helper 1細胞による皮膚の炎症を抑制することが予想され、乾癬の治療において、17β-エストラジオールが有効であることが示唆される。今後は表皮角化細胞の、他のケモカイン産生に対する17β-エストラジオールの作用について検討する予定である。
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