研究概要 |
我々はこれまで神経冠細胞(neural crest cells,以下NCC)培養系を使い、メラノサイト前駆細胞の増殖分化に関わる因子を検討し、報告してきた。TGFβ(Transforming Growth Factor β)スーパーファミリーは、TGFβやBMP(Bone Morphogenetic Protein)などが含まれ、生体の発生や形態形成に重要な役割をする。TGFβは様々な細胞で生成され、その作用は多岐に及ぶ。皮膚ケラチノサイトやメラノサイトに対しては、細胞周期の調節に関与する。一方、SCFはチロシンカイネースレセプターであるKITを介して作用する。このSCF/KIT伝達系の働きは、皮膚メラノサイト発生や分化増殖過程に必要不可欠であり、それが阻害されるとin vitroでは細胞死を起こしてしまう。我々の研究機関はNCC培養系よりNCCmelb4(NCC由来メラノサイト前駆細胞株)やNCCmelan5(NCC由来成熟メラノサイト株)のcell lineを確立している。まずNCCmelb4細胞は、抗TGFβ1抗体を用いた免疫組織化学染色で陽性所見を得、細胞内にTGFβ1が存在するのを確認した。次にWestern blottingとRT-PCRを用いて、抗TGFβ1抗体がNCCmelb4細胞のKIT発現とどう関与するかを調べた。抗体の濃度を多くすると、KIT発現は蛋白レベルでもmRNAレベルでも減弱し、最終的には消失した。また抗TGFβ1抗体を添加して、1日目、2日目よりも3日目が蛋白レベルでもmRNAレベルでも、NCCmelb4細胞のKIT発現は一番抑制をうけた。一方、抗TGFβ1抗体下では、マウス神経冠培養系の成長が阻害され、高濃度下では死滅した。NCC細胞は盛んに増殖しても、やがて分化し成熟メラノサイトになると増殖しなくなる。NCC培養系や幼若メラノサイトであるNCCmelb4細胞で、TGFβスーパーファミリー、特にTGFβ1は、メラノサイトの増殖分化過程に大きく関与することがこの実験で明らかとなった。TGFβをはじめTGFβスーパーファミリーがメラノサイト分化に様々に関わり、このメカニズムの解明は将来、悪性黒色腫治療へ応用できるかもしれず、今後の進展が期待される。
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