研究概要 |
マウス毛色遺伝子の中でアグチ遺伝子の機能を調べるためにC57BL/10JHir系統のブラック(+/+)およびコンジェニック系統のC57BL/10JHir-A/Aのアグチのマウスを用いて研究した。生後0.5日の+/+とA/Aのマウスの皮膚の表皮より培養したケラチノサイトもしくはメラノサイトでアグチ遺伝子の発現がみられるかどうかを、アグチ遺伝子の特異的なプライマーを用いてRT-PCR法により調べた。その結果、両系統とも培養したケラチノサイトとメラノサイトでアグチ遺伝子は発現していなかった。また、生後0.5、3.5、5.5日の皮膚の表皮では両系統ともアグチ遺伝子は発現していなかった。一方、A/Aのマウスの真皮では生後0.5日では発現が弱かったものの、3.5、5.5日では同程度に強く発現していた。+/+のマウスでは全く発現していなかった。従って、A/Aマウスの表皮由来のメラノサイトにおいてアグチ遺伝子の影響が見られ、フェオメラニンやその前駆体の形成が高まるのは、培養に供した生後0.5日の皮膚において真皮で発現したアグチ遺伝子の効果が表皮に及んで、培養メラノサイトがアグチタンパク質によって影響を及ばされたと示唆された。一方、pink-eyed dilution (p/p)マウスの表皮メラノサイトの無血清初代培養系での増殖活性は、野生型のブラック(+/+)に比べて低かったが、L-チロシン(Tyr)を過剰に加えると+/+と同等の活性になった。ところが、このTyrによる増殖活性促進効果はマウスの発生に伴って弱まった。一方、生後0.5,3.5,7.5日でp/pではほとんどメラニンの生成がみられなかった。ところが、Tyrを加えると濃度依存的にメラノサイトの分化が誘導された。また、Tyrによる分化誘導効果はマウスの発生に伴って増大した。分化に伴って細胞内のユーメラニン・フェオメラニンの量は増加したが、その増加量はごくわずかであった。ところが、培養液中にはユーメラニン、フェオメラニン及びそれらの前駆物質が多量に認められた。p/pマウスの表皮メラノサイトにおいては、ユーメラニン・フェオメラニンは細胞に保持されずに放出されることが示唆された。さらに、slaty (slt/slt)とrecessive yellow (e/e)の遺伝子のメラニン生成への影響を野生型のブラック(+/+)と比較して調べた。7.5日齢の真皮/表皮のPTCA比を比較すると、+/+、slt/slt、e/eで各々5.6、4.5、5.3倍と真皮の方に多くPTCAが得られた。4-AHP比も、+/+、slt/slt、e/e各々2.2、2.7、7.3倍と真皮の方に多く得られた。体毛ではslt/sltのPTCA値は+/+の1/12に減少し、e/eの4-AHP値は128倍に増加した。また、表皮、真皮におけるPTCA値はslt/slt、e/e共に+/+に比べて少なく、発生の進行とともにその差が顕著になった。一方、4-AHP値はslt/slt、+/+共にe/eに比べて少なく、発生の進行とともにその差が顕著になった。slt/sltと+/+の4-AHP値ではほとんど差がなかったのでslt/sltはユーメラニンの生成を抑制すると思われる。これはsltの支配するTyrp2がユーメラニン生成に関与するDCT活性があることと良く一致している。これらの結果から、e/eの表皮および真皮はユーメラニンとフェオメラニンを生成し、それらは、表皮、真皮とも発生に伴って増加することが明らかになった。 ヒトを6つの人種(アメリカンインデアン,アラスカ人,アジア人,黒人,ラテン系人,ハワイ人,白人)に分け、紫外線を照射したところ、1MEDの紫外線によって誘導されたDNA損傷は,アジア人よりも白人の皮膚において著しく高く,アジア人の皮膚のDNA損傷レベルはラテン系,黒人よりも高かった。それに対して,ラテン系,黒人の皮膚のメラニン含量は,アジア人や白人よりも多かった。このことから,DNA損傷は紫外線により敏感な色の薄い皮膚において高く,紫外線により低抗的な黒い皮膚において著しく低いことが観察された。
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