肺疾患を胸部写真やHRCTによって診断する際最も重要なステップは、肺既存構造と病変の関係を正確に解析する事である。これにより鑑別診断の幅が狭まることはHRCTと病理の過去30年に亘る比較検討で明らかにされて来た。然しながら肺既存構造の内、肺実質については画像診断の立場からは充分に検討されておらず、本研究の課題である胸部写真とHRCT間の関係解明を肺実質病変で目指すには未だ不明な点が多い。そこで本年度は肺実質の基本的解剖とその構築について検討した。伸展固定肺標本を対象とし、実体顕微鏡による立体観察と組織標本の顕微鏡観察を組み合わせて解析した。結果を以下に要約する。(1)肺実質は気管支、肺血管、小葉間隔壁、肺胸膜等から区別される空間充填型の構造である。(2)肺実質は空気と軟部組織から構成され、軟部組織は肺胞隔壁と肺細血管から成る。(3)空気は肺胞と肺胞道に含まれる。肺胞道は直径0.3mmの流路であり、呼吸細気管支に繋がる。(4)肺胞隔壁は側壁と天井が区別される。肺胞側壁は同じ肺胞道に属する肺胞を境し、肺胞天井は隣接する肺胞道に属する肺胞を境する。(5)肺胞道に開口する肺胞群は、平面の敷き詰めの如く隙間無くに配列する。その様子は蜂巣に模される。(6)肺胞の配列は菱形12面体を原型とした蜂巣モデルから説明される。(7)肺胞の立体的配列は両面蜂巣モデルから説明される。両面蜂巣モデルは隣接する肺胞道に属する肺胞群が背中合わせに2層重ねられた状態を指す。従って肺胞天井は平滑な面でなくジグザグ様である。(8)肺胞道と所属肺胞群を呼吸管とすると、呼吸管は空間を充填する構築を示す。呼吸管どうしの連絡は呼吸管を境する両面蜂巣の壁を間引きする事で可能となり、2以上の多分岐、有角度ならびに無角度分岐も説明できる。(9)肺細血管は呼吸管間の肺胞天井側に分布する。
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