本研究はディジタルX線写真の診断能の評価をX線CTと肺標本の解析を基礎に実施する計画を立てた。対象疾患として肺癌の他に肺線維症、塵肺などの各種びまん性肺疾患を選んだ。研究を着手した段階でこれらの疾患の病変の場が肺実質であり、しかもそれらの病変のX線学的コントラストがやはり肺実質によってもたらされることに注目した。しかし肺実質の構築の詳細については放射線医学の立場からの研究は殆どなされておらず、この問題抜きにはディジタルX線写真の正確な評価は難しいと判断し、研究に着手した。肺実質の構築に関する研究は伸展固定肺標本を用い、実体顕微鏡による観察と組織像の組み合わせを特に重視した。必要に応じて標本のX線像、CTを利用した。実体顕微鏡による標本の3次元的観察を重視したのは組織像が2次元像であり、肺実質の構築を解析するには不十分だからである。研究結果を以下に要約する。肺実質は空間を緻密に充満するスポンジ様構造体である。肺実質は気管支、肺血管を取り囲み、肺全体の容積の9割を占める。スポンジ様構造体は空気を含む流路とそれを囲む微細構造に分かれる。実体顕微鏡観察ではそれぞれは肺胞管固有腔と肺胞に相当する。肺胞は隣接する肺胞管を境するように背中合わせに2層並ぶ。この際肺胞ドームは共有されるが、この事を十分に周知して来なかったため肺の構築に関する理解は臨床医のレベルで世界的に遅れたものになっている。肺胞管は細気管支と異なり、その全体的形状は多面体であり、空間を充満するのに適している。肺胞管は分岐により流路の連続性を保ち、呼吸細気管支に通じる。肺血管は肺胞管の間の狭い空間を走行するので血管周囲性に浸潤する病変は血管を囲む肺胞管内の空気でコントラストが付与される。一方肺腺癌は肺胞ドームを連続的に浸潤しつつ等方的に拡大する。肺結核は肺胞管を充満する典型的気腔性病変である。このように肺実質の構築から肺疾患の画像診断の見直しを進める必要がある。
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