研究概要 |
前年度の研究から食道扁平上皮癌細胞にc-erbB-2の発現が認められる症例があり、この群では放射線治療に抵抗性であることが予測された。このためin vitroで食道扁平上皮癌細胞にc-erbB-2が発現しているか否か、またもし発現細胞がある場合には抗c-erbB-2抗体を用いて放射線増感効果が得られるか否かについて検討を行った。ヒト食道扁平上皮細胞株(KE4,TE8,TE9,and TE10)およびヒト食道腺癌(SKGT4)細胞株でc-erbB-2の発現を調べたところTE9細胞およびSKGT4細胞で発現が認められた。次に、すでに難治性乳癌の治療に用いられている抗c-erbB-2抗体transtuzumab(10μg/ml)を用いて、in vitroで放射線との併用実験をおこなったところ、transtuzumab単独では抗腫瘍効果が認められなかったが、c-erbB-2の発現細胞において放射線増感効果が得られた。 さらにその他の放射線感受性に影響する因子に関して野生型p53を有し、放射線感受性のことなる2種類の細胞株の放射線照射後に発現する遺伝子をDNAマイクロアレイ法により経時的に解析した。放射線抵抗性株と放射線感受性株で、占有率の差が最大であったのはDNA修復・複製関連の遺伝子群で、放射線抵抗性株において占有率が高かった。また、これらの遺伝子群は、両株に共通して発現した遺伝子群のなかでの占有率が最大であり、DNA2本鎖切断およびDNA1本鎖切断の代表的修復経路の主要因子を含んでいた。これらの結果から、DNA修復・複製関連の遺伝子は電離放射線の膠芽腫細胞に対する生物学的作用と密接に関連しており、放射線感受性の予測因子となる可能性が示唆された。
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