本研究は食道癌術前照射症例および放射線単独照射症例を対象とし、放射線効果を予測する因子を探索するとともに、放射線効果を修飾する方法を開発することを目的とした。初年度は順天堂医院にて根治的放射線治療および術前放射線照射を施行し、無染ブロックが入手可能で、研究に先立ち、患者本人あるいは代理にたいして無染ブロックの研究目的の使用の許可を文書で得られた34症例を対象に、免疫組織染色法を用いて種々のタンパクの発現と放射線に対する反応との関連を求めた。その結果c-erbB-2が強発現している症例では有意に放射線に対する反応が不良であった(P=0.02)。c-erbB-2の発現により細胞生存シグナルが活性化される可能性が考えられた。以上より次年度の研究ではc-erbB-2の発現を中心に研究を進めることとした。 15年度ではin vitroで食道扁平上皮癌細胞にc-erbB-2が発現しているか否か、またもし発現細胞がある場合には抗c-erbB-2抗体を用いて放射線増感効果が得られるか否かについて検討を行った。ヒト食道扁平上皮細胞株でc-erbB-2の発現を調べたところ発現が認められる細胞株が存在した。次に、すでに難治性乳癌の治療に用いられている抗c-erbB-2抗体trastuzumabを用いて、in vitroで放射線との併用実験をおこなったところ、trastuzumab単独では抗腫瘍効果が認められなかったが、c-erbB-2の発現細胞において放射線増感効果が得られた。 さらにその他の放射線感受性に影響する因子に関してDNAマイクロアレイ法により経時的に解析した。放射線抵抗性株においてDNA修復・複製関連の遺伝子群が占有率が高く、さらに、これらの遺伝子群は、両株に共通して発現した遺伝子群のなかでの占有率が最大であり、DNA2本鎖切断およびDNA1本鎖切断の代表的修復経路の主要因子を含んでいた。
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