研究概要 |
放射線被曝後の脳機能障害を明らかにするため,これまで全脳(大脳皮質および海馬を含む)に限局したプロトンおよび炭素線照射モデルを作成し,脳機能に与える影響について検討を行った.行動薬理学的手法により,記憶・学習の晩発性脳機能障害が,炭素線30Gyの局所照射により照射3ヶ月後に発現していること,またこの高次脳機能障害には,記憶に重要な役割を持つ海馬領域の神経細胞の特異的脱落が関与していることが判明した. さらにプロトン(陽子線)照射による中枢神経系の障害についても同様に検討し,30Gyの単回脳局所照射により,記憶・学習障害が照射24時間後に発現していること,また病理組織学的変化は認められない時期に,神経伝達物質と,その受容体との結合動態に異常亢進(結合定数の増大)が生じていることを報告し,2002年9月26-29日オーストリアで開催された第8回重粒子線生物学-第2回欧州治療ネットワーク会議(8th Workshop on Heavy Charged Particles in Biology and Medicine together with the 2nd Meeting of the European Network for Light Ion Hadron Therapy-in Baden)において,放射線生物学部門表彰を受けた. 放射線局所照射による脳内不飽和脂肪酸の組成変化および脳局所血流量について,炭素線30Gy照射後の影響を検討したところ,高度不飽和脂肪酸の一過性の増大と,約10%の局所血流量の減少が観察されており,詳細な経日変化を観察しているところである. 一方,放射線障害による脳機能障害とその防護について基礎的実験を行ったところ,アルコール投与により,マウス全身照射後30日間の生存率LD50/30が,有意に減少することを報告した(第8回重粒子線生物学-第2回欧州治療ネットワーク会議). 平成15年度において,重粒子線による脳機能障害をさらに明らかにするため,放射線照射後の局所脳血流量と機能障害との関連性や,不飽和脂肪酸組成の変化に対するアルコールの作用について検討する予定である.
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