1 恐怖条件付け前および後の両側視床背内側核あるいは扁桃体の破壊は不安・恐怖行動であるすくみ行動を有意に抑制した。さらに、扁桃体破壊ラットとは対照的に、視床背内側核破壊ラットにおけるフットショック負荷直後のすくみ行動は抑制されなかったことから、視床背内側核は文脈的条件恐怖記憶の長期的貯蔵あるいは固定化に関与していることが示唆された。 2 最近不安障害に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が広く用いられ、高い有効性が認められてきた。恐怖条件付けにおける扁桃体の機能に対するSSRIの作用について検討した。ショック箱(文脈)に恐怖条件付けされたラットの両側扁桃体底外側核にSSRIを局所投与した実験では、条件恐怖によって惹起されたすくみ行動は顕著に抑制された。本結果は、条件恐怖に対するSSRIの抗不安作用の作用脳部位の一つが扁桃体基底外側核であることを示している。 3 グルタミン酸系の関与について検討するために、NMDA受容体アンタゴニストの脳局所投与実験を行い、扁桃体、視床背内側核への投与が恐怖条件付けの形成およびいったん形成された条件恐怖の発現を抑制することを見いだした。 4 条件恐怖の曝露により脳の様々な部位で転写因子であるc-Fos蛋白の発現は増加するが、特に扁桃体における条件恐怖によるc-Fos蛋白の発現増加はSSRI全身投与により抑制された。破壊実験と局所脳投与実験の結果から、SSRIはセロトニン神経伝達亢進を介して扁桃体の機能を抑制することにより抗不安作用をもたらしていることが示唆される。 5 条件恐怖により基底外側核、外側核、中心核では対照群に比べて有意にc-Fos蛋白発現が増加し、特に外側核、基底外側核における増加はフットショックによる増加よりも顕著であった。消去学習により基底外側核のc-Fos蛋白発現は有意に減少したが、他の亜核では有意な変化はみられなかった。
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