研究概要 |
目的:高度医療機関精神科で立ち上げられた「中高齢期の難治性うつ病に対する包括的治療システム」が,地域医療機関で治療されている難治性うつ病の治療に寄与するという仮説を証明する.方法:6ヵ月以上の大うつ病エピソードの持続が認められる50歳以上の中高齢期難治性うつ病患者を地域医療機関より積極的に受け入れ,高度医療機関精神科でプログラム化された急性期治療および継続維持治療を実施し,その短期的および長期的転帰を「反応率」「寛解維持率」を指標として評価した.また,急性期ECT実施群については,急性期治療と継続治療の転帰に及ぼす要因を検討した.結果:平成16年2月までに登録された患者数は48人で,このうち治療前の包括的臨床評価で急性期薬物治療の適応となった患者数は24人,急性期ECTの適応となった患者数は24人である.現時点で,急性期ECTの短期的反応率は80%以上,急性期ECT後の継続薬物治療の6ヶ月寛解維持率は50%以上,再燃例に対する継続ECTの6月寛解維持率は60%以上を維持している.年齢,性は短期的および長期的転帰に影響しないが,併存する身体疾患およびMRI上の虚血性病変は急性期ECTの効果を減じる傾向があり,また急性期ECT反応例に対する継続薬物治療の寛解維持率を低下させる.Krishnanの定義するVDとnon-VD間で局所脳血流量を比較したところ,VDではnon-VDと比較して,ECT終了2週間後および3ヶ月後の前頭前野および前帯状回の局所脳血流が有意に低い.結論:高度精神科医療機関における「中高齢期の難治性うつ病に対する包括的治療システム」は,地域の精神医療機関で治療されている難治性うつ病患者の治療に寄与する.脳血管障害の併存は継続治療の寛解維持効果を低下させ,その病態には前頭前野および大脳辺縁系の持続的機能低下が関連している可能性がある.
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