研究概要 |
カテコラミン作動薬であるメタンフェタミン(MAP)は統合失調症に類似した精神病を引き起こす。MAPを投与した動物の脳では、遺伝子の長期持続性の発現変化が想定されている。DNA上で5'-CG-3'配列上のシトシンがメチル化されると、下流に存在する遺伝子の発現が抑制される。我々は、MAP投与ラット脳で、DNAシトシンメチル化酵素1型(Dnmt1)mRNAの脳内発現が変化することを見出した。本研究ではこれをふまえて以下の検討を行った。 1 MAPに感受性が高い近交系Fischer344ラットでは、MAP投与で海馬コルチコステロン受容体mRNが減少、感受性が低いLewisラットでは変化を認めなかった。MAPの作用の一部はコルチコステロン依存性で、コルチコステロン受容体はDNAのメチル化を介して遺伝子の転写を制御する。従って、上記2系統の近交系ラットのMAP感受性の差異には、コルチコステロン受容体を介したDNAのメチル化による転写制御が関連していることが示唆された。(Kabbaj, M., Yoshida, S., Numachi, Y., et al. 2003) 2 MAPを投与したWisterラットの脳で、Dnmt2 mRNAの脳内発現は変化しなかった。一方、reelin mRNAは、前頭葉だけで投与後3時間で有意に減少、その後正常レベルに戻った。最近、統合失調症患者の前頭葉でreelin mRNAの発現減少とDnmt1 mRNAの発現増加が報告された(Veldic,2004)。従って、MAPは前頭葉で統合失調症と同様のreelin mRNAの発現減少を引き起こし、これがMAPの精神異常発現作用と関連する可能性が考えられた。(Numachi, Y., Yoshida, S., Yamashita, M., et al. in press)
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