研究概要 |
(1)オレキシン低値がナルコレプシーの疾患特異性であるのか、過眠や脱力発作の状態特異性であるのかはまだ明らかになっていない。そのために一次性の過眠症(Narcolepsy-Cataplexy (N/C) 25例、Narcolepsy without Cataplexy (N/noC) 10例、真性過眠症(EHS)6例、特発性過眠症(IHS)8例)と二次性の過眠症(睡眠時 無呼吸症(OSA)16例、Niemann-Pick Type C(NPC)2例)、約200例の神経疾患でのオレキシン値を検討した。N/Cでは25人中20人でオレキシンは著明な低値であった。これらの20人ではHLA-DR2(+)であったが、DR2(-)の5症例ではオレキシンは正常値であった(Kanbayashi(a)2002)。N/noCの10名中では4例で低値であり、4例は全員DR2(+)であった(Oka2003)。EHSの6例、IHSの8例では中程度の低値を示す例もあったが、ほぼ正常値であった。OSAの16例のオレキシン値は正常範囲内であった(Kanbayashi(b)2003)。NPCではCataplexyのある例では低下、無い例では正常値であった(Kanbayashi(a)2003)。神経疾患の中では下記に述べるギランバレー症候群(GBS)以外には特に複数例で低値となる疾患は認められなかった(Nishino2003,Arii2003)。これらの結果からオレキシン低値は過眠の症状よりもナルコレプシーかつDR2(+)にみられる特異的な所見と考えられた。一方、視床下部の腫瘍や脱髄性疾患で過眠とオレキシンが低値の症例が認められた(Kato2003,Oka2004)。同様の症例の蓄積と解析が今後の課題である。 (2)ナルコレプシーの病態機序には自己免疫仮説が想定されている。その仮説を明らかにするために、52人の自己免疫性神経疾患の脳脊髄液を検討した(Nishino2003)。GBSが28人、フィッシャー症候群が12名、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)が12名である。対照患者群としては計48名の自己免疫性以外の神経疾患とした。脳脊髄液中のオレキシン値は対照患者とこれまでに報告されている健常人(280pg/m)では差がなかった。一方GBSの患者では28人中7名が低値であり、5名が中間値であった。フィッシャー症候群では5名が中間値で、CIDPでは1名が中間値であった。GBSの低値の7例では臨床的にも、四肢麻痺や呼吸障害を来して重症であった。低値の患者のうち、回復後に反復入眠潜時検査での検討が可能であった2名は入眠潜時が1分以下と過眠症状を示した。重症例に特異的な抗ガングリオシド抗体は見いだされなかったが、GBSではオレキシン神経に対する抗体が出来て、その為にCSF中のオレキシンが低値の可能性を検討している。NPCやGBSにおけるオレキシン低値の原因検索がナルコレプシーでみられる永続的なオレキシン脱落の原因解明の一部分になると考えている。
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